▼G0073 谷に消えた歴史
随分と深い階層まで降りてきたような感覚がある。
奇妙なことに、強い魔力を感じるのに魔物の気配がない。
むしろ肌が痺れる程に感じる魔力に、魔物も逃げ出したというところか。
この階層もあちこちが崩壊しかけ、一部は瓦礫となって行く手を塞いでいた。
だが、いたる所に、遺跡となる前に暮らしていた者たちの痕跡を留めている。
赛利卡「矮人の業物か、見事だな」
持ち帰って売ったならば、かなりの値になるだろう。
矮人族――多くは地中深くに住まいを築き、採掘した鉄や銅と見事な技を以って、武具を造り上げる。
特に錬金術に優れた一族は、魔法効果のあるパール鋼を作り出すと聞く。
一見して以前ここに住んでいた矮人は、その技を持っていたようだ。
丹念に壁の際の様子を調べて、ふと、足を止めた。
崩れかけた壁の一部に文字が彫られている。これも矮人族のものだろうか……。
赛利卡「いや、古代文字だな」
興味を引かれて覗き込んだが、随分と崩れていて読める箇所は殆どない。
だが、いくつか読み拾うことはできそうだ。
赛利卡「“英雄が一柱”……この部分は“封印”……だな」
赛利卡「“新しき……と人とに戦いを挑まんとす”」
後は……。
赛利卡「“其は古き盟約の為、其は古き誓約の為”」
赛利卡「“目覚めは新しき世の目覚めなれども、其は……の滅びを呼ぶ”」
崩れかけた部分も予測して読み解いたが、これが限界のようだ。
誰が何の滅びを呼ぶのか分からないが、相当に凶悪な物が封じられているのだろう。
俺は目の前の硬い石の壁に手のひらを当てて、静かに瞼を閉じた。
不快な物音が伝わってくるわけではないが、人が知り得ない偉大なものが眠っているのかも知れない。
赛利卡「下手に暴けば遺跡自体が崩れかねないな……」
今は封じられ地上に這い出す気配も無い。
赛利卡「恐らくこの奥に潜む者が原因となって、矮人族は谷から去って行ったのだろう」
赛利卡「縁ある物なら、何れの後にまた訪れるかもしれん」
呟く俺の言葉自体が封じの呪文となったように、魔力の気配は小さくなって消えていく。
もう一度周囲を見渡して、俺はその場を離れることにした。
此段战Z的剧情文本