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【搬了个运】p站大佬的文,也许火星了?

只看楼主收藏回复

并没有授权,只是看见首页的帖子想起来有这回事。
侵删。(这不是必须得删嘛233)


IP属地:江苏1楼2017-03-10 21:50回复

    就是这位大佬,文图双触(大概?)首先请容许我向他低个头虽然我并不懂日语。
    id=2119767


    IP属地:江苏2楼2017-03-10 21:51
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      说明一下,这只是方便了不能上P站的同志们……
      (也许有人翻过了?)
      首先按照时间顺序,第一篇:Girl meets boy

      日本から遠く離れた孤島のとある街。
      この地には珍しくない日本人、それも中学生ほどの年齢の少女が現地のファミリーレストランで物憂げにオレンジジュースを啜っていた。
      確かにこの地、ハワイ島では日本人の観光客は珍しくない。そのため現地の不良に絡まれた挙げ句、パスポートを盗まれたり強盗に遭ったり、はたまた目を離した隙に子供を人質に取られ大事件に発展したりと、密かにハワイ当局の警察官を悩ませていたりした。
      『日本人は平和ボケ』――まさにその不名誉な称号が的を射たりしてしまっているわけで、店員もこの年端もいかない少女を少しは気にかけていたのだが、どうも彼女は様子が違う。
      小柄な身体から言い表せない威圧感が放たれているような気がするのだ。故に昼食時で店内は混雑しているというのに、彼女の陣取った四人掛けのテーブルと周囲の席は空席だった。その勇気ある少年がやってくるまでは。
      『――スミマセン、相席いいですか?』
      (……またか。どうなってんのよ……ここの『警備員』、いや外部じゃ警察官、だっけ?)
      美琴は、かれこれ片手で数えられるほど声を掛けられ、その度に上手くかわしてきた。あまりにしつこい場合には、能力だとバレないように制裁してきたのは秘密である。
      (でも、話し方はなまりもなくて綺麗だったし、文法もしっかりしてたし……日本人かしら)
      それならば、とプレッシャーを感じさせるように放っていた対人用電磁障壁を解いて、努めて淑女らしく、にこりと笑いかけた。
      『ああ、こちらでよろしければどう……ぞ!?』
      メイドイン常盤台の御嬢様スマイルがひくりと引き攣る。淑女を気取ってなどいられなかった。地の底まで届くような深い深い溜め息を吐き出し、それからもう一度顔を上げて溜め息。
      美琴の前に現れた人物、それはハワイの日に焼けた浅黒い肌の現地人の中で明らかに浮いている真っ白な肌をした少年だった。
      「どうしてあんたがここにいるのよ……一方通行」
      美琴同様、しかめ面をした一方通行と呼ばれた少年は、舌打ちをしながらどっかと椅子に腰掛けた。
      「ちょっと、勝手に座んないでよ。あんたと相席なんて何の罰ゲームよ」
      「あァ?さっき気持ち悪ィ笑顔でどォぞっつっただろォが。どォしてここにいるかだと?そりゃコッチの台詞だ」
      「……後から来たのはあんたの方なんだけど?」
      「どォ見ても売上に貢献してンのはこっちだろ。嫌なら、そのお子サマサイズのドリンク飲ンでさっさと帰れ」
      美琴のトレイの上には一方通行の言う通りSサイズの紙コップ一つ。対する一方通行の方は、よくそれだけ食べても太らないものだと感心するほどチキンやらフライドポテトやらが乗せられていた。
      彼は既にそれの消費に取り掛かっていて美琴がいくら出ていけと言っても取り合ってくれそうにない。だからと言って、ここで帰るのは何だか癪だった。
      「……おい、なに他人のモン勝手に食ってやがる」
      「相席料よ相席料。ほら、キャバクラとかも料金設定あるでしょ?こーんなかわいい美琴さんと相席できるんだから有料に決まってるじゃない」
      飄々と言ってのけた美琴は、一方通行を視界に入れないように窓の外の通りを眺めながら、自分のものではない方のトレイからフライドポテトを一本ずつ摘まんで口に運ぶことを繰り返した。
      特に話すこともなく、一方通行は、その様子を何気なく見ていると打ち止めや番外個体とは異なる所が目につく。
      (当然だが、やっぱ違ェもンだな)
      例えば、どことなく取っ付きにくさを感じさせる目元だとか、身に纏う凜とした空気だとか。
      感心していたせいか彼女が気付かない内に逸らすはずだったのに、次の瞬間には鳶色の瞳と視線が交わっていた。
      「何よ、さっきからじろじろと」
      まさか美琴を観察して妹達との違いを探していたなどと変態じみたことは口が裂けても言えない。
      「いや、ただオリジナルの割にはガキくせェと思ってただけだ」
      「……ふぅん、あんたケンカ売ってるんだ?でも生憎そんなやっすいの買わないから」
      「ハッ、誰が誰にケンカ売ってるだって?下位のヤツにわざわざ売るかっての」
      「どうかしら?私そのチョーカー、ちょろーっと興味あるんだけど」
      端から見れば、バチバチと火花が爆ぜる音でも聞こえてきそうなほど険悪なムードが漂い始める。
      そこに、いかにもアメリカ人らしいプラチナブロンドの髪をしたアルバイトの若い女性店員がコーヒーを運んできた。
      『コーヒーお持ちしましたー!……ってあら?』
      『あァどォも、』
      「ちょっと聞いてるの!?大体ねぇ、さっきだって邪魔するなとか言っといて構ってきたくせに余計なお世話よ!」
      「あァ?ナニ自惚れちゃってンですかァ?守ってなンざねェし構ってもねェ。視界に入って鬱陶しかっただけだって何度言ったら分かるンですかねェ?」
      「自惚れてなんかないわよ!誰があんたなんか!」
      「こっちこそ願い下げだ、このクソ女」
      目の前で繰り広げられる舌戦に、日本語は理解できずとも二人の雰囲気を読み取った店員の少女は「Oh!」と何やら楽しげに感嘆の声を上げた。
      「It's Japanese culture !」
      「「Japanese culture ?」」
      思わず溢れた英語が息もぴったりだといことに二人は気付いていないが、少女はその様子にやはりそうだと自分の予想が正しかったことを悟る。
      『ほら、日本の文化の……つんでれーってやつ!』
      『違う!それは、本当は気になってるのに素直になれない人のことでしょ!?』
      『違うの?だってあなた達、カップルでしょ?』
      『どこをどォ見りゃ仲睦まじい恋人同士に見えンだ』
      『あら失礼、新婚さんだったのね!よく日本人ってハワイに新婚旅行に来るものねー。あ、この時期は新婦さんはマリッジブルーになりやすいから、』
      『違ェよ!ご丁寧に声潜めてアドバイスするンじゃねェ!』
      昼下がりの客足の少ない店内に、流暢なそれとは似合わない的確な英語のツッコミと、時に「Japanese culture」な口論が飛び交う。
      天然というか物怖じしないというか、そんな少女に振り回されて、終いには美琴が密かに購入したはずの指輪のことまで知られていて話を持ち出され、婚約指輪だの結婚指輪だのと彼らに都合の悪い状況証拠というやつばかりがあって、それからはてんやわんやだった。
      店を出る頃には暖かい視線と少しの拍手に見送られることになった一方通行と美琴は、ハワイの陽気な雰囲気の中をやけにぐったりとして重い身体を引きずって帰ることになったのだった。


      IP属地:江苏3楼2017-03-10 21:55
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        注:里面上条先生的CP是茵蒂克丝。
        ピンポーン、と軽快な音に続いて足音がやって来る。次いでガチャ、とドアが軋みながら開いた。
        「よお、御坂。まぁ上がってくれ」
        「ありがと。おじゃましまーす」
        美琴が初めてここに来たのは大分前で、その時は目の前の少年しか見えていなくて物の配置やにおいには気付かなかったものが今はお馴染みのものだ。そして、この少女も。
        「みことー!」
        部屋の奥からとたとたと修道服を揺らしながらやって来たのは、インデックスだ。
        「いらっしゃいなんだよ!」
        胸に猫を抱えて来て、にこりと笑った。
        それを目にした美琴といえば。
        (くぅ~、かわいい!何なのこのお人形さんみたいな顔!子犬みたいに飛びついてくるかわいさ!何で最初に気付かなかったの私!)
        可愛いものには目がない彼女は、可愛い女の子にも目がない。
        美琴よりも頭一つ分小さな背丈、柔らかい銀髪、エメラルドグリーンの目。その他のどのパーツも陶器でできているように白く人形そのもののようだ。彼女が無表情であったらアンティークドールと間違えるだろう。
        そんな端正で幼い顔つきの少女がにこにこと微笑む様は、かわいい以外の言葉では表しようがなかった。
        「みこと?どうかしたのかな?」
        「あ、いやっ……そうそう、これ!近所のうまいケーキ屋さんでケーキ買ってきたの。みんなで食べない?」
        「けーき!?食べる食べる!」
        本当に飛び付かんばかりの勢いにまた美琴が悶えたくなったのは置いておいて。
        部屋の中心に一つしかないテーブルに着いて、ケーキの箱を開くと色とりどりのケーキが五つ。
        典型的なショートケーキを始め、ガトーショコラなど甘さを控えたものもある。
        「どれがいい?多分、アイツらは興味ないだろうから好きなの選んじゃって」
        「んー…こんなにあると迷うんだよ。みことのおすすめは、どれなのかな」
        「そうねぇ……このストロベリーなんかどう?」
        「うん、じゃあそれがいいな。あ!」
        「え?なに?」
        実はインデックス用にストロベリーのケーキを買ってきたのだが、苺が苦手だったのか。
        「みこと、ありがとうなんだよ!」
        インデックスは、「じゃあ、いただきますなんだよー」と言いながらケーキを食べ始める。
        (今の……今のなに!?しかもこの食べる仕草!まるでハムスターを思わせるような……)
        「うにゃああああああ!!!もう我慢できない!!」
        何だ何だと騒ぎを聞き付けて上条がこちらにやって来る。
        「どうした!?御坂!」
        「ど、どうしたの?みこと?」
        「アンタ……いやインデックス!アンタうちに来ない?」
        美琴は極めて真剣な表情で戦いの始まりとなる声を上げたのだった。
        * * * * * * *
        「ダメだ」
        「私ならひもじい思いさせないわよー?毎日フルコースでも全然おっけーだし」
        「ふるこーす……!」
        「インデックス!?ズルいぞ御坂!エサで釣るなんて!」
        「ほぅら、見なさいインデックス。あのバカ、アンタのことペットだと思ってるわよ」
        「むぅ。とうま嫌いかも」
        美琴は、にやにやと猫のように嫌らしく笑い、上条にとって宜しくないことにインデックスは上条を拒絶するように美琴の後ろに身を潜めている。今この場所で金の何たるかを実感した上条であった。
        片や、もう一人の超能力者は、こちらの騒ぎには興味の無さそうに優雅にコーヒーを啜っていた。
        「一方通行」
        「人生ってのはそンなもンだ。奪い奪われる弱肉強食ってなァ。諦めろ」
        「確か同い年ぐらいでしたよね!?人生語らないで!」
        「……まァ、策がないわけでもねェ」
        「ホントか!?」
        一方通行は美琴と似たり寄ったりな表情で笑い、上条に「来い」と指で合図をする。この時、上条はこの学園都市の超能力者は性格破綻者ばかりで、しかもその内の頂点にいる者は悪魔のごとく非道だということを忘れていた。
        普段のこの少年の素行を見ていれば、見た目は天使のようで中身は極悪非道な悪魔だということは直ぐに分かることであるが。
        「俺が工面してやる。あのシスター買うための資金をな」
        「一方通行……!」
        「俺とオマエの仲だろォが」
        上条にとって、ふっと口元を緩ませて笑う第一位様は、それは天使に見えたらしい。
        「あー、そこのバカ。そいつに金借りるなんて馬鹿なことしない方が身のためよ」
        「え?」
        「一生かかっても返せない利息つけられるから。アンタの残りの人生、一方通行の奴隷に永久就職したいなら何も言わないけど」
        「えええええっ!?」
        「チッ、おい第三位。人のモルモット盗ってンじゃねェよ」
        モルモットより奴隷の方がまだ人間であるだけマシだ。どうやら、この場に上条の味方はいないようだった。これもいつものことだ。
        しかし、美琴にインデックスを譲るわけにはいかない。魔術どうのを抜きにしても彼女は上条にとって、大切な人である。
        皆の生温い視線が注がれる中、上条は意思を改めて固めてインデックスの前に座った。
        「インデックス。そりゃあ俺は御坂や一方通行みたいにお金はないし、物もない。だけど!俺の勝手な意思だけど、俺はお前のそばでお前を守るって決めてるんだ。だから……」
        「……とうま」
        「御坂のとこに行くなんて言わないでくれ!生活は将来、俺が働くようになったら不自由させないし、飯も今以上に食わせてやる!」
        「とうま」
        「今、こんなこと言っても信じられない……って、どうした?」
        インデックスが口を開こうとした次の瞬間、台所からジュワッと何かが吹き零れる音がした。
        「とうま、お湯が沸いてるんだよ」
        「ぎゃーっ!台所から煙が!?」
        紅茶を淹れる為に火にかけていた湯がタイミング悪く沸騰したらしい。ここでも彼の不幸が発揮されたようで、彼は急いで台所に姿を消し、わたわたと右往左往に動き回っていた。
        「……いいの?アレで」
        「んー、やっぱりわたしにはとうましか考えられないかも」
        「もやし生活も楽しいんだよ!」と言って、やはり可愛らしく笑う少女は少しだけ頬を赤らめて、美琴に向けられるどれとも違う笑顔を見せた。
        インデックスは、聞こえてきた悲鳴と鍋やフライパンの落ちる音に釣られて片付けを手伝いに同じく台所へ駆けて行った。
        「羨ましい、とか。思ってンのか?」
        「……うるさい」
        「アイツの方か、それともマジでソッチの趣味があンのかどっちだ」
        「黒子とは違うわよ!私は癒しを求めてるだけなんだから、まとめないでよね」
        美琴はインデックスを小動物系統に見立てて可愛がろうとしていたが、一方通行には彼女の、毛を逆立てて威嚇するように強がるところや懐かない者には懐かないところ(例えば一方通行とか)が猫のように見えた。不貞腐れた横顔は、少し寂しそうでずぶ濡れの雨の中、飼い主に捨てられて行き場のないそれそのものだ。
        余談であるが、一方通行はそういうものに弱い。
        「なァ、俺がオマエを飼ってやろォか」
        「はあ?嫌よ。大体どの流れからそうなったのよ」
        「癒しがどォのってトコから。最近、番外固体のおかげでストレス指数が鰻登りなンだよ」
        つまり、彼の言葉が意味することとは。
        「ぜっっっっったいに嫌!それアンタが私弄ってストレス解消したいってことじゃない!!」
        「はァ?癒しってのはそォいうもンだろ」
        「違う!根本的に間違ってる!こう、何というか心が安らぐとか……」
        「俺はいいと思うぞ、御坂」
        一方通行以外の声の主は、上条だった。手にはティーセット一式を乗せた盆を持ち、彼に想いを寄せている少女達がときめくような爽やかな笑顔を浮かべている姿は主に仕える執事のようだ。
        しかし、この状況下では誰が見ても美琴への復讐を目論んだ、腹黒さを含んだ笑みにしか見えない。というか事実そうなのだ。
        「一方通行は優しいもんなー。そして飯も食わせてくれると。いやぁ、上条さんは御坂さんが羨ましすぎます」
        「思いっきり棒読みなんですけど!?」
        「よし、前主の許可ももらったことだし来い」
        「ぎにゃあああ!アンタ!あとで覚悟しときなさいよ!!」
        ずりずりと首根っこの辺りを掴まれて引っ張られる美琴が少し可哀想になった上条だったが、
        (でも、何気に一方通行は御坂に打ち止め達と同じく優しく接して……ないな)
        数々の過去の一方通行の美琴に対する態度や行動が思い出され、心の内で合掌する。後が怖いが、取り敢えず憂さ晴らしはできたので良しとしよう。
        「あーだめなんだよスフィンクス!」
        ごそごそと棚の奥を漁って首根っこをインデックスに持ち上げられているスフィンクスが一方通行に引っ張られていった美琴にそっくりで、上条はやっぱりやり過ぎたかもと本格的に後悔し始めた。彼が道端で猫耳を着けてパワーアップした電撃姫にレールガンを撃ち込まれることになるのは、また別の話である。
        End.


        IP属地:江苏4楼2017-03-10 21:57
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          你可以试试机翻+手动修正


          IP属地:江苏来自iPhone客户端5楼2017-03-10 22:00
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            dd


            IP属地:江苏来自Android客户端6楼2017-03-10 22:22
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              标题:初夏のプレリュード
              ーーとある進学高校の廊下にて。
              テストでは通称「落ちこぼれ」組に属する上条は、例のごとく担任に叱られとぼとぼと教室への帰路に着いていた。
              中の上程度の体格に、お世辞にも「整っている」とは言い難い顔つきを総合すると、どこにでもいそうな高校生である。
              彼は元よりあまり勉強が得意ではなかった。中学の頃はまだ複雑な何たら方程式だの古文の助動詞だのがなかったため、平均並の成績が取れていて後は面接でカバーして何とかこの学校に入学できた。だが、高校ではそうはいかない。
              バザバサッという音と共に前方で女子生徒が倒れていたので、それに手を貸しつつ再び職員室へ向かう。彼女は、数学係でクラス分の課題を提出しに行くところだと言う。この間、彼女の頬がほんのり赤く色付いていたことに上条は気付かなかった。
              「次からは気を付けてな」
              と、手を振り去ろうとする上条に、彼女は礼として数学を教えたいと言ってきた。職員室に行く道すがら数学が苦手だと言ったことを気にかけてくれているならば、その心遣いを無駄にする彼ではない。じゃあお願いしようかと、口を開きかけて、その言葉は第三者の妨害によって告がれることはなかった。
              「遅ェンだよ、バ上条」
              上条を「落ちこぼれ」ではなく「バカ」と呼ぶのは彼の他にも数多いるが、この特徴的なドスの利いた声の主は上条の知る中では一人しかいない。
              一方通行。上条とは何から何まで真逆で、学園、否、全国トップの頭脳明晰さ、それに加えて端整な顔をした白髪赤眼の色白の少年である。それ故に常に不機嫌を顔に貼り付けているのが惜しまれる。
              「あれ?今日って何かあったっけ?」
              「成績がビックリするほど残念なバ上条くンに『学園トップの美少女、御坂美琴センセーのスパルタ特別授業☆』だとよォ。テメェのせいで俺がこンな面倒な役回りさせられてンだよ。さっさと来やがれ」
              「うぅ……またか……。っていうわけで、ごめんな。また今度!」
              少女が控え目に会釈していくのを横目に一方通行は溜め息を吐いた。幼馴染みの贔屓目を抜きにしても、上条は世間で言う「イケメン」ではないにもかかわらず、三歩歩けば犬も棒に当たる、ではなく逆ナンされる。そして警戒心もなく考えなしにホイホイと着いていくのだから面倒だ。
              一方通行のように相手の下心を見抜いて遊ぶつもりならば何も言うことは無いのだが。
              しかし、自覚しているという面では自分の方が罪なのかもしれない。横で項垂れている、こういうことには何かと鋭い幼馴染みに悟られぬように一方通行は自嘲した。
              * * * * * *
              いつものファミリーレストランでは、既に少女二人が各々の意味でぷくっ、と頬を膨らませて待っていた。
              「おっそーい!美少女二人をこんなに待たせるなんて罰金よ罰金!」
              癖っ毛のある茶髪を揺らして憤慨しているのは御坂美琴、その隣でパフェに舌鼓を打っているのがインデックスだ。彼女も一方通行と同じく日本人離れした銀髪碧眼の美少女であった。
              「とうまのことだからまた女の子掴まえてたんだよ、きっと」
              「い、いや、今回はその!困ってる人がいたので、まぁ……何というか……申し訳ありませんでしたあぁぁ!」
              「よろしい。さって、さっさと始めちゃうわよー」
              合計六つの眼に睨まれては言い訳をする余裕もない(内、四つは殺気込みである)。
              この四人は生まれた時からではなくとも、幼い頃から一緒に過ごしてきた。まるで正極と負極のようにタイプが異なるが、バランスの取れた四人で小学生の頃からこれまで、春も夏も秋も冬も何度も繰り返して同じ季節を見てきた。
              「はい、これ因数分解して。あ、こんなの暗算でできて当たり前よ」
              「……3x+2?」
              「ぶー。答えは3xの2乗なんだよ」
              「授業中スパムのエロ画像なンざに魅入ってるからンなことになンだよ」
              「あ、あれは土御門が送ってきたから偶然開いちゃって!いや、違いますからね!?お願い引かないでインデックスさん御坂さん」
              汚物でも見るような侮蔑の視線に晒されつつ、半ば泣きそうになりながらも美琴に教えられて課題に取り組んでいく。
              美琴は期末試験の順位は一方通行に次ぐ二位だが、教え方はトップだと上条は思う。以前、一方通行に教えてもらったときはそれはもう酷かった。彼にとっては科学や言語は、理解するものではなく感覚で捉えてしまうものなのだ。天才とはこういう人を言うのだと実感した瞬間であった。
              「……うん、さっきよりマシになってきた。アンタにしては良いカンジよ、頑張ったじゃない」
              「いやいや、美琴センセーのおかげですことよ。本当助かってる」
              「べっ、別に大したことじゃ……そう、アンタだけ留年なんて可哀想だし!その、私でいいなら、いつでも見てあげるわよ」
              「ありがとな、御坂」
              「い、いいから続き!」
              美琴の髪を撫でる上条と、子供扱いするなと照れ隠しに鬱陶しがる美琴の姿は微笑ましかった。インデックスもそれをニコニコと笑みを浮かべて見ていたし、一方通行は変わらずの無愛想だが、これはいつものことだ。
              「回数。増えてるんだよ、あくせられーた」
              普段はふわふわとした柔らかい笑顔で周囲を和ませているインデックスは、最近美琴に感化されてきたのか、碧眼を三日月型にしてにたりと笑うことを覚えたようだ。苛立つとコーヒーを何回も煽る癖を始め、何かと少女に弱味を知られている一方通行にとっては、よろしくない兆候だ。
              「オマエも口引き攣ってンぞ」
              「むぅ、どうしてそーゆーこと言うのかな。するーしてくれればいいんだよ!とうまは、そうしてくれるんだよ!」
              「アイツは良いパスも悪いパスも全部スルーしてるがなァ」
              「そうなんだよ!最近も一緒に映画に行ったときにねーー」
              一般に結論に直結した会話を好む男は、女の過程ばかりで結論の見えない話が苦手だといわれているが、一方通行はこうしてインデックスや美琴の何気ない話を聞いていることが嫌いではなかった。
              学校で呼び出してくる女子生徒の語尾の長ったらしい話し方は苦手だし、耳をつんざく黄色い声で華やかな話をされるのは嫌いだ。特別な存在である少女達だからこそ、耳障りでないのだろう。
              「あくせられーたは、みこととどっか行かないの?」
              「コンビニ行くとき着いてくるぐらいだな。オマエらみたく約束取り付けてってのはねェ」
              「どうして?みことも喜ぶと思うんだよ」
              「ケンカして帰って来ンのがオチだろ」
              「そうかな」
              「そォだよ」
              インデックスはむむむ、と考え込んで黙ってしまった。おっとりした彼女には分からないのだろう。美琴が誰を想い、想われたいと思っているのか。その誰かが誰を想っているのか。
              幼い頃から鋭かった一方通行は、いち早くそれに気付いた。それから年齢を重ねる毎に、糸がさらに複雑に絡まっていくのを幾度となく感じた。自分が動けば全てを切ってしまいそうで動けない。思考がどこまでも深く埋没しつつあったところ、インデックスが突然ケータイを持って立ち上がった。
              「みんなで行くんだよ!!これに!」
              ずい、と小さな手が突き出すケータイのディスプレイに三人が注目する。そこには目が痛くなりそうなほどカラフルな広告画面が。
              「みこと!新しい服たくさん買いたいって言ってたよね!?」
              「うん、まぁ……」
              「とうま!新しいじゃーじーほしいって言ってたよね!?」
              「あぁ、まぁ……」
              「あくせられーた!新しい、なんだっけ……あれ!あれほしいって言ってたよね!?言ってたんだよ!うん!」
              「押し付けられた感がしないでもねェが……まァいいか」
              インデックスの中には既に完璧なフローチャートが出来上がっていた。いわば、「夏休みのみこととあくせられーたの買い物計画byいんでっくす」である。
              「そのためにも、とうまには頑張ってもらわなきゃなんだよ!今からはみこと交代、わたしが出るんだよ!」
              「な、何だか嫌な予感が……」
              上条はそのとき、RPGでラスボス倒したと思ったら、実は次がラスボスだったという展開が頭を過って、つまり「完徹」の文字が点滅していた。
              End.


              IP属地:江苏7楼2017-03-10 22:37
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                标题:とある少女たちの恋愛談義
                如何に科学が『外』と何十年もの差が存在するとしても、彼ら学生が「自分だけの現実」を能力の発動源として利用していても、その世界は人間の住む場所であり、学生は学生なのである。つまるところ、彼らの抱く不安や悩みといったものは『外』と大差はない。自分の能力や勉強、成績のこと、将来のこと、友人、先輩後輩関係、etc。
                この場所、近代的な学園都市には古い趣を残す場所もあるらしい。日本の古き良き時代の雰囲気を醸し出す銭湯の一角を陣取る彼女らの悩みは共通して恋愛関係だった。軽重は在れども。
                「この間もとうまったら女の子の神聖な着替えを覗いておきながら、何の反応もなかったんだよ!そんなに『きょにゅー』が好きなのかな!とうまは!」
                「あー、アイツにそっちの反応期待するだけムダよ」
                湯から身を乗り出す勢いで捲し立てるインデックスと、それにひらひらと手のひらを下に向けて呆れた様子で応える美琴、そして真剣に分析する初春の三人はつい先程この店の前で偶然にして出会ったばかりだった。後輩に代わってボディガードを務めていた美琴と巡回役の初春が、ハンバーガーショップの店頭で項垂れる奇妙なシスターを保護した、という説明が客観的に見ると正しいだろう。
                「うーん……やっぱり、男の人って、……その、おおきい方が、いいんでしょうかね?御坂さん」
                「いや、そう言われても……」
                美琴とて恋愛経験が多いわけではない。一方的に想いを寄せられることはあっても、一緒に街に出掛ける程度であって、それ以上先に進んだ経験はほぼ皆無だ。しかし、美琴を頼りになる先輩若しくは「お姉さん」として憧れている初春はそれなりに経験があると踏んだらしい。瞳をキラキラと輝かせて美琴に期待を込めた視線を向けている。
                「あー……えぇっと、垣根なら気にしないんじゃない?」
                「み、みみみ御坂さん!誰も垣根さんのタイプなんて聞いてませんよ!私は、一般的な男の人のことを聞いただけなんです!」
                「ご、ごめん」
                「それに垣根さんは十中八九、大きい方が好きですよ。だって私のこと『お子様体型なちんちくりん』って言って憚らないですから」
                むす、と初春にしては珍しく怒りを露わにして不機嫌を体現している。
                (まぁた垣根は初春さんに余計なこと言ったのか。ケンカの多い二人よね)
                今日は風紀委員の仕事は休みだというのに、支部に赴いてきたのはそういうことだったのだ。なお、このことを美琴が声に出していたら間違いなく反論が返ってきていたことだろう。なぜなら、美琴と件の少年の口論の回数は前者二組の少女少年のそれの比ではないからだ。
                「ねぇ、あの白い人はどうなのかな。みこと」
                「……え?」
                「だーかーらー、あくせられーたのことなんだよ。男の人の一般論を知る為にも情報の独占は良くないんだよ」
                「さあ?何せアイツ、ロリコンだから牛か絶壁がお好みなんじゃない?中途半端が一番……って何でもないわ」
                どうせ私は、などと悪態をつこうとして言い留まる。彼が、一方通行が、どんな嗜好だろうと自分には関係ないはずだ。インデックスや初春とは違って、彼とはそういった甘く柔らかい関係ではない。
                だから何だというのだ、と美琴は内心で憤る。同じ加害者で、結果的には共犯者。実験が凍結して彼の守るものが何たるかを知ったところで、互いに顔を合わせ戦場に共に立つことになったところで何も変わりはしない。はずなのだが、必要以上に彼の動向を気にしている節があると美琴は自身でも気付いていた。
                (きっと最近、平和だから気が緩んでるのね。引き締めなきゃ)
                と、決意を固めている間にも少女達のガールズトークは弾んでいた。こと恋愛話になると、女性という生き物は予想以上の行動力や会話力を発揮したりするものなのである。
                「シスターさんは物知りだって聞きましたけど、えっと、そういう方法はないんですか?……その、むね、を大きくするとか、スタイルをよくするとか」
                「他人に化ける、なんてことは意外と簡単なんだけどね。こういうことはキミたちの方が得意分野だと思うんだけどどうなのかな」
                「今のところ、画期的な方法はないみたいです。残念なことに」
                「「うーん……」」
                それぞれ、「ないすばでぃになって、とうまを見返してやるんだから!」とか、「垣根さんに女の子として見てもらえるようになるんです」と考える二人は真剣そのもの。後輩と年下と思しき少女の乙女らしい可愛さとほのぼのとした雰囲気に包まれて、美琴はゆるりと頬を緩める。
                そして、そんな彼女達の恋愛についてほんの少しくらいならば詮索しても許されるだろうと内緒話でもするように身を寄せた。
                「ね、初春さんって垣根とどんな話するの?正直、アイツが普通の話してるのなんて想像できないんだけど」
                「意外とお話してくれますよー。この間も美味しいプリンのお店を教えてくれましたし、あ、あと余り物だってケーキもらってきてくれたんです」
                「けーき!?むむむ、羨ましいんだよー」
                「でもアイツだってケーキとまではいかなくてもプリンなら買ってくるでしょ?」
                「うん。あとね、たまに作ってくれたりもするんだよ!とうまはお金ないっていうけど、とうまのお料理が一番かも」
                「大切にされてるんですね。羨ましいです」
                「うん、とうまは優しいんだよ。それにあなたもきっと同じだと思うんだよ。お菓子に興味ある男の人って少ないだろうから」
                「そ、そうですかね……えへへ」
                自分の誇りであるかのように上条のことを自慢げに語るインデックスを羨む感情はあっても、嫉妬のそれを抱かずに微笑む余裕さえあることに美琴は安堵していた。
                だからかもしれない。今が二度とない絶好の逃亡のチャンスであったということに彼女は気付かなかった。
                「それで、みことはどうなのかな」
                「どうって、何が?」
                「気になってる人とか、いないんですか?」
                詮索してやろうと対象にしていた少女達が二人して詰め寄ってきて、後退りながらたじろぐ。しまった、と思えど既に時遅し。
                佐天達と仲を深めていく中で美琴は学んだはずだった。ガールズトーク、特に「恋バナ」の場合、その場にいる者は例外なく近況報告じみたことをしなければならないのだ。誰が気になるだとか、カッコイイだとか、告白したとか、そんなことを。
                「え、っと……まぁ、最近はないかなー……だって、ほら。海外行ってて忙しかったし?アンタんとこも留守してたでしょ?」
                「そんなのは!関係ないんだよ!恋は忙しかろうと始まるときは始まるんだよ!」
                恐らく彼女が夕飯時に観ているだろうドラマの影響を受けたようなセリフでもってインデックスは力説する。そこにそういえば、と初春が何気なく独り言のようにぽつりと呟いた。
                「さっきの一方通行さん、でしたっけ。最近よく御坂さん、一緒にいますよね」
                「う、初春さ……ああ」
                好奇心に満ちた碧色の瞳がギラリと獲物を見つけたかのごとく輝くのを美琴は横目で捉えた。
                「それでそれで、みこととあくせられーたはどんな関係なのかな!」
                「関係、ねぇ……。ロマンティックなものではないことは確かね。腐れ縁みたいなものかしら」
                「でも気になってるってことも確かですよね?だって白井さん情報によると御坂さん、下着を新調したって聞きましたし」
                「っ!!な、なななん、」
                「女の子が下着を気にし始めたら恋の始まりなんですよ」
                恋愛話をはじめ、様々な噂話を好む佐天から聞いたのだろう説がズバリ当たったことに、心の中で得意げに(ほんの申し訳ほどある)胸を張る初春。現に美琴は、以前から後輩に言われたことを気にかけてキャラものでない下着を何着か購入していた。
                「ふむふむ、お似合いだと思うんだよ」
                「だっ、そ、それは……!」
                「ですよね。町中で見かけても通りすがりの人の大抵が振り返って御坂さん達を見るくらいですから、それはもう、」
                「だから、違うのよ!!」
                突如として声を荒らげ、バスタオルで身体の殆どを隠すようにして立ち上がった美琴をインデックスと初春は、無垢な表情を浮かべつつ首を傾げて見上げる。
                「アイツに対しては、そういう、恋?なんて甘ったるい感情なんか持ってなくて、むしろ何ていうか……苛つくっていうか、憎いっていうか、そんな感じで!でも、あの子達を守ってるって知ってからは……うん、少しずつ微妙になってったかな。でもでも!油断してた時に攻撃一つ凌いでくれただけで許そうなんて思ってないわよ!ましてやちょっと嬉しかった、なん、て、…………あれ?」
                何の話をしていたのだろう、そして自分は今、何を口走ったのだろう。一度立ち止まって整理しようとしても、声に出してしまったことは二人にしっかりと伝わっていたし、時間ももちろん戻ることはない。
                「ふぅん、みことはやっぱり素直じゃないんだよ。好きなら好きって言えばいいのに」
                「……一応確認してみるけど、誰が誰を好きだって?」
                「みことがあくせら、」
                「ハッ、ないない、ありえないわ。……あんなやつ……嫌いよ」
                最初こそ抱いていた憎悪が変化しつつあるという事実など認めたくはなかった。その変化を捨て置いて忘却を恐れ、そして罪を背負うことこそ自分の存在意義である。
                自分の中の小さな変化など。少女たちの見えないところでぐっと拳を握る。
                「とにかく、そういうことよ。私は、一方通行のことなんて気にもかけてない、これでいいわね」
                美琴は、この話しはお終いとでも言うように締め括り、風呂から上がろうとする。半分ほどがタオルで覆われた湯水の伝う背中は傷一つなく艶かしく、かつ凛としていてそれ以上の追及を拒絶していた。
                しかし、インデックスと初春はあえて「空気を読まずに」アイコンタクトを交わし、美琴に二人して飛び付いた。初春は風紀委員で鍛えた「犯人の取り押さえ方」を駆使して彼女を羽交い締めにし、インデックスは両指を妖しげに動かしながら構える。
                「なな、なにっ……」
                「ふふふ、己の御心に従わない悪い仔羊にはちょっとした罰が必要なんだよ!」
                「さあ御坂さん。御坂さんがもっと自信を持てるおまじないをシスターさんが……これはまさかシンデレラ!?シスターさんは実は魔法使いさんなんですか!」
                「あ、あながち間違ってない気もするけど初春さん!この子は主に大食いシスターだから!!あっ……ちょ、インデックスどこ触って、」
                暫し、とある銭湯の女湯に似つかわしくない、少しばかりの「アレ」な声が響き、騒々しい嵐が巻き起こったとは露知らず。殿方は殿方で何やら小さな騒動を起こしていたのだが、それはまた別の話である。
                end.


                IP属地:江苏8楼2017-03-10 22:42
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                  标题:カラーリング・バースデー
                  その日、上条家は朝方からお祭り騒ぎだった。昨年は記憶喪失のため、上条本人も忘れていたこともあって土御門や青髪ピアスに押し掛けられる形でドタバタと、ただ何となく過ぎてしまったことをインデックスが相当に悔やんでいたのかもしれない。
                  誰が声を掛けたのかも分からない人間が何人か上条の自宅の扉を叩いては、上がり込んで騒動を巻き起こして去って行った。それが夜にもなれば、はた迷惑な誰かによって持ち込まれたアルコールの類がジュースやお茶などの飲料と混ざってどれかどれかの見分けも付かなくなり、未成年の飲酒という世間的によろしくない事態を招いてしまっていた。
                  幸か不幸か、上条は酒に呑まれやすいタイプであった。ジュースと間違えてコップ一杯を一気に呷ったところ、空きっ腹に急激に酒がまわり、
                  「みこっちゃーん、飲んでる飲んでるー?」
                  「わ、酒くさっ!飲んでるー?じゃない!未成年は飲酒禁止だ、この酔いどれ!」
                  「えー、固いこと言わないでほれほれ」
                  と、どこからどう見ても酔っぱらいのサラリーマンだった。
                  高校生男児に寄り掛かられて退けられるほど美琴は力があるわけでもない。能力も、彼が右手で美琴に触れているために使えない。
                  どうしようかと考えあぐねていたとき、肩がふと軽くなった。見れば後ろの方で、美琴に寄り掛かっていた上条が白い手に襟首を掴まれて吊られている。
                  「あれー?一方通行がおおきい?」
                  「オマエが床に転がってるせいだろ。一回シスターに食われて目ェ覚ましてこい」
                  洗濯機に服を投げ入れる要領で上条をインデックスの方に放ると、それまで頬をぷくりと膨らませていた彼女は餌を得たかのごとく上条の頭部に噛み付いていた。
                  心地良い悲鳴を背に、一方通行は窓を開けてベランダへと出る。立ち上がって、美琴もそれに続いた。
                  室内の華やかな喧騒とはかけ離れた、冬の夜の静かな空気が張り詰めている。
                  ベランダの柵に背を預けた一方通行の隣で、同じように柵に腕を乗せて、電光で明るい街を見下ろす。
                  「綺麗ね」
                  一方通行が応えないことを分かっているのか、美琴は独り言のように小さく、それでも少し楽しそうに呟く。
                  「オマエは俺を糾弾しに来たのか?それともさっきの、酔っぱらいとくっついてたかったのか」
                  「あの騒がしさから離れたかっただけ、さっきは助かったわ。アンタは……なーんか納得いかないって顔してるわね」
                  「あァ?」
                  「暇つぶしに付き合ってあげてもいいわよ」
                  少しだけ躊躇したが、別段、黙っていることでもないはずだ。一方通行は、今朝から抱いていた疑問を美琴にぶつけてみた。
                  それは、なぜ誕生日というものをこれほど盛大に祝うのか、ということだった。
                  違和感を抱くのは当然かもしれない。生まれて間もない頃は記憶もあやふやで、幼少期は研究所で生活していた少年だ。同年代の子どもたちと遊ぶことはもちろん、誕生日を祝うこともなかっただろう。そもそも彼が「化け物」になることを選んだのは、彼らを傷付けないためだったのだから。
                  だが、陽のあたる場所で普通に暮らし、育ってきた美琴には理解しがたいことだった。
                  「え……それじゃあ、アンタの誕生日は?」
                  「知らねェ。憶えてないところで困る情報でもねェだろ」
                  「そういう問題じゃないでしょ!」
                  言葉を交わすようになった今でも、一方通行は彼自身の過去のことをあまり語りたがらない。特に美琴には。
                  それがどういう理由からかは彼女には図りかねるが、かたくなに口を閉ざされるのも腹が立つものだ。この事が原因で何度となく口論を繰り返しているのは周知の事実だ。しかし、またここで彼に噛み付いても空気を掴むような感覚しか得られないだろう。
                  美琴は自身を落ち着けるように深く息を吐いた。
                  「……まあいいわ。誕生日ってのはね、その人が生まれたことを祝う日よ」
                  「生誕祭ってやつか」
                  「仰々しく言えば、そうね。でも生まれてきてありがとう、おめでとうって言うけど、難しいと思わない?恋人や両親ならともかく、改めてこの人が生まれてきてよかった、なんてそんな実感さ」
                  「……」
                  「ま、アイツなら救われた私達が生まれてきてくれてありがとうってのは分かるけど、普通の一般人が誰も彼も他人の命を救ってるわけじゃない。私たち超能力者でも、無能力者でもね」
                  だからね、と一息置いて美琴は続ける。
                  「私は、その人が生きててくれて、出会ってくれてありがとうって、そういう日だと思ってる」
                  「生きてて……?」
                  「そ。その人が死んでから想うことの方が多いのよね。死を想うことはあっても生を想うことは少ない。誕生日の存在意義はそこだと思う」
                  夜景を見つめたまま緩く微笑んだ美琴に対して、一方通行は視線を落として何事かに思考を巡らせていた。
                  「それは、そいつにとってマイナスの影響を及ぼしてもか?例えば、俺が誕生日を憶えていたとして、オマエはそれを他の奴らと同じように祝えンのかよ」
                  美琴にとって自分と出逢ったことなど、とても祝えるものではなく、むしろ恨むべきものだ。そして、自分さえ生まれていなければ、彼女は犯罪の片棒を担ぐようなことにもならなかったはずだ。真っ直ぐに正義だと思える道だけを歩んできた彼女が。
                  今でさえ、こうして隣同士で会話をしていることも不思議なくらいのことを一方通行はしてきた。それでも美琴は、不穏な表情の一つも見せず、それまでと同じ、柔らかくよく通る声で答えた。
                  「祝えるわよ。ううん、祝えなきゃおかしいわ」
                  「はァ?憎むならまだしもオマエ、頭イカれてンのか」
                  「そりゃね、アンタと初めて会ったときは、こんなヤツ生まれて来なきゃ良かったのに、くらい思ってたし、あの実験を無かったことにする気なんてさらさらない。でも今は、あの子たちを命懸けで守ってくれてる、あの子たちが生きたいと思える存在になってくれてる。だから――」
                  その言葉は冷え切った空気を温かくするように耳に柔らかく馴染んだ。本来、彼女から向けられる言葉ではないし、憎悪や怨恨の念を抱かれることはあれども、感謝の意など、論外である。
                  「分かンねェな」
                  感謝に至るまでの美琴の思いには、一方通行の思考では到底追い付かない。自分には到底手の届かない世界にいる人間、彼がそう象徴付けていることに美琴も肌で感じていたのだろう。
                  預けていた腕をベランダの柵から離して、一方通行の方に向き直る。
                  「じゃあ逆に質問。アンタは、実験の加害者の一人である私の誕生日を祝える、YES or NO?」
                  からかうような、しかしどこか自嘲しているような口調だ。
                  美琴自身が、こんなことを問うこと自体が愚行であり、問うまでもない、決まりきった答えのあることだと。そう考えているように。
                  現に彼女は、簡単すぎる答えにも辿り着けない、出来の悪い子供を
                  諭すような眼で一方通行を見ている。
                  「俺は――、」
                  「あーっ!ミサカのいないとこでヒミツのお話してる!ってミサカはミサカはあなたとお姉様の仲を疑ってみたり!」
                  ベランダの引戸がスパーン、と開いて打ち止めが室内から飛び出てくる。その勢いのまま、一方通行の腰に飛び付いた。口振りからは拗ねている様子だが、頭のてっぺんから伸びる癖毛は上機嫌にぴょこりと揺れている。
                  「危ねェだろォが、クソガキ!!」
                  「だって、お姉様と仲良さそうに話してるんだもん!ミサカもミサカもー!」
                  「はァァ?オマエとはいっつも話してるだろォが」
                  どうやらこの小さな少女は、白髪で赤眼の愛想の一つもない少年に恋をしているらしい。見た目は年の離れた兄妹のようだが、もう少し少女が成長すれば恋人同士に見えるだろう。目の前の微笑ましい二人に、美琴は頬を緩める。
                  暫し一方通行の袖に縋り付いて食い付いていたが、打ち止めがくしゅん、と可愛らしいくしゃみをしたことで、二人は室内に戻ることになった。
                  (妬かせちゃったかな)
                  去り際、少女が美琴をちらちらと窺っていたことを思い返す。
                  妹達がそういった人間らしい感情を抱くことは美琴にとって喜ばしいことであるし、それが可愛い妹の恋となれば姉として応援したくなるものだ。
                  良い心地で、改めて一人で寒空を見上げていると、ポケットの中に入れていた携帯電話が鳴る。ディスプレイには、『メール一件』の一文が浮かび上がる。
                  『答えは、誕生日に返す』
                  送り主は、一方通行。
                  「答え」と聞いてすぐにはピンとこなかったが、先の話のことだと思い出し、美琴は感情が溢れてくるのを抑えるように眉を寄せて寂しげに笑う。
                  そんなこと決まりきったことだというのに。でも、もしも美琴のうちにある答えとは異なっているとしたら、あの一方通行はどう答えるのか。
                  もしかしたら彼が、美琴の求めている答えを持っているかもしれない。彼が納得したかどうかは定かではないが、美琴がそうしたように。
                  心のどこかで、そうじゃないと否定してくれることを彼女は望んでいた。そう望むことが、彼女の許すところではなくとも。
                  『楽しみにしてる』
                  その一文だけを返信して、携帯をポケットに落とす。
                  沈み過ぎてしまった気分を切り替えるために一息ついて、
                  「ん?でもアイツ、私の誕生日知ってたっけ。……ま、いっか」
                  それから少しして後輩から呼ばれたことをきっかけに美琴も熱気のこもった室内に帰った。その時にほんの一瞬だけ一方通行と視線を交わして、しかし美琴は後輩に、一方通行はまた他の誰かに声を掛けられて、互いに会話に戻っていく。
                  ベランダにもあとは、賑やかな笑い声が微かに零れてくるだけだった。
                  end.


                  IP属地:江苏9楼2017-03-10 22:44
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                    标题:グランマニエの悪戯
                    バレンタインデーだというのに特別任務を課された白井黒子は、へとへとになって帰宅した。「だというのに」というのは少し語弊があるかもしれない。バレンタインデーだからこそ、課されたのである。バレンタインデーに浮つき、ハメを外すカップル達は少なくない。風紀委員にとってははた迷惑な日なのである。
                    愛しのお姉さまにもチョコレートを渡せなかったことであるし。そんな彼女が自室にて見たものとは。
                    「えへへー黒子おかえりぃー」
                    ベッドにて乱れた「お姉さま」の姿であった。
                    寝台の上には色とりどりの洋菓子の箱が散らばり、シーツはくしゃくしゃになってベッドの端に寄せられている。そこまでは許容範囲内だとしよう。しかし、着乱れた服装の端々に垣間見える異常は明らかである。
                    「お、お姉さま!?どうなされたのですか!?まさか悪い物でも……」
                    「んー?何ブツブツ言ってるのよぉ。早くここ!ここに来なさいよぅ」
                    バシバシと叩くは彼女の隣である。何だか様子のおかしい美琴に従わざるを得ない白井は、美琴に近寄ってようやく事を悟った。
                    「お姉さま、お酒を召されましたわね?」
                    もちろん、真面目で正義感に溢れる美琴が好んで飲んだわけではないだろう。空になっている多くの箱を観察したところ、贈られた洋菓子のうちに強い洋酒の含まれた物があったのだ。それを何らかの理由で並々ならぬ量を一気に消費した彼女は、酔ってしまったらしい。
                    (ハッ……これはまさかお姉さまをいただいてしまう一世一代のチャンスなのでは!?)
                    介抱しなければ、と思いつく理性より先に白井は下心に満ちていた。あわよくば酔って警戒心の薄れた無防備なお姉さまを美味しくいただいてしまおう、と。
                    「ぐふふふふふ……さあ、お姉さま!いつでも黒子の胸をお貸ししま……って、あら?」
                    「暑いにゃー。おそと行くぅ」
                    「お、お姉さま!?窓からダイビングなど危ないですわ!お姉さま!」
                    今しがた大人しく座っていたと思えば、開け放った窓の縁に足をかけて、今にでも飛び出そうとしている。普段の美琴ならば造作もないことだが、今の彼女はまともに脳が働いていないだろう。そして、大能力者である白井には美琴を止められない。
                    (誰かお姉さまを止められる方をお呼びしなければ)
                    美琴には悪いが、この際、誰でもいい。
                    祈る思いでベッドの端に転がっていた携帯に手を伸ばした。
                    その頃、とある少年は胃の中を洗浄するために何杯目かになるコーヒーを啜っていた。ゆらり。深海のように深い焦げ茶色の水面に雪色の髪が揺れる。
                    (クソガキどもが。揃いも揃ってクソ甘ェもン食わせやがって)
                    少年、一方通行の傍らにも美琴よりは少ないが似たりよったりな箱が転がっていた。それらは全て空になっている。彼が自ら進んで食したのではない。姉妹二人と元研究員の3人の手によって強引に食べさせられたようなものだった。男一人家族だと悲しいかな、こういうことが起こり得るのである。独り身の男性にとっては喉から手が出るほど羨ましいことなのかもしれないが。
                    今日は散々な日だった。そんなことを振り返っている彼にまたしても不幸な出来事が舞い降りる。
                    「夜分に申し訳ございませんの」
                    聞き覚えのない女の声に一方通行が俊敏に反応し、首元のチョーカーに手を伸ばすーー前に、ソファに座っていた一方通行の膝にドサッと何かが落ちてきた。
                    「あれぇ?一方通行だぁ」
                    「は、ァ?」
                    『反射』の発動を寸でのところで止める。その少女の声は少々間延びしているが、聞き覚えがあった。同居している姉妹そっくりの少女。彼女達の姉だ。
                    そして、いつの間にか姿を現していたツインテールの少女が初対面にしては高圧的な態度でこう言った。
                    「学園都市第一位の能力を見込んで、折いってお頼みしたいことがございますの」
                    * * * * * * *
                    そうして一方通行は一晩、はた迷惑な少女を預かることになってしまった。
                    当の本人は何も知らずに「うふふー」と幸せそうに笑みを零しながら上機嫌そうである。首が座っておらず、頭がフラフラと揺れていて危なっかしい。胸元も大きく開けていて、スカートも太股が顕になるほど捲れ上がっているというのに、直す素振りもない。普段の凛々しく気高い超能力者第三位の姿は見当たらなかった。
                    「……はァ」
                    なぜ自分なのか。まず一方通行は、白井にそれを問うた。恋人でも何でもないのはもちろん、美琴との仲はそれなりに悪い。過去の彼らの因縁を知れば、誰でもそれが当然だと考えるだろう。そして何より美琴が、彼がそばにいることを許さないはずだ。
                    それとなく美琴が自分を嫌っていることを伝えたというのに年下らしき風紀委員の少女は、
                    『お姉さまがあなたを嫌っていようと、あなたしかおりませんの。運の悪いことにあの無能力者の方は留守のようですし』
                    最後に慇懃な一礼をして姿を消した。
                    一方通行は、このへらへらと笑う少女は守ると決めていない。
                    だからと言って放っておけるのか。あの小さな少女と瓜二つの顔をした少女を。
                    「ねぇねぇ。ねぇってばー。聞いてるのぉ?」
                    「…………」
                    「聞きなさいよー!」
                    「あああああ聞くから電気出すンじゃねェ!何だよ」
                    「えへへぇ、ブラと短パン忘れてきちゃったー」
                    「……それを知って俺ァどォすりゃいい」
                    某無能力者の少年が耳に入れれば鼻血でも吹くようなトンデモナイことを口にする酔っ払いの扱いが面倒臭くて、ふと前にもこんなことがあったことを思い出した。
                    「母親にそっくりだな」
                    「んー?ママに会ったことあるの?」
                    「会ったっつゥか、今みたいに絡まれただけだ。向こうは覚えてねェだろ」
                    「ふぅん」
                    今の美琴には興味の無い事のようで、すぐに傍らのクッションを抱きしめてむにゃむにゃと言葉にならない何事かを呟いていた。
                    その姿がやはり郵便ポストに抱きついていた妙齢の女性と重なってしまう。見慣れた色の髪と同じ顔つき、映したものの内側まで見抜いてしまいそうな鳶色の大きな瞳。
                    「なに見てんのよぅ。あー!どうせ胸だけは違ェなとか思ってるんでしょ。そう!絶対そう!変態!」
                    「思ってねェよ」
                    「嘘つき。少しは思ったくせに」
                    少しの図星を突かれて、ぐ、と押し黙る。番外個体の方がそういう面では似ているのに、とどうでもいいことまで考えてしまっていたのが正直なところだ。
                    「む、失礼ねー。美琴センセーだってちっさくてもあるんだからね!」
                    「っ、何しやがっ、」
                    首を引き寄せられて、何かに顔面から突っ込む。女性の象徴であるそれは嗅ぎ慣れない花のような甘い香りが強く、そして包むまでは足りないが確かに柔らかいものがあった。どこか懐かしいような、落ち着くような、そんな感覚に囚われる。
                    「うふふ、うふふ、髪さらさら」
                    「…………オイ」
                    「もふもふもふもふ、猫みたい。にゃあって言ってみてー」
                    「言わねェよ。離せ」
                    「ふにゃー」
                    「オマエが言ってどォする」
                    全く離してくれる様子はない。強引に振り払うこともできる。が、何となく今はこれでもいいかとそのまましたいようにさせてやった。猫でも撫でるように美琴の細い指が一方通行の髪を梳いていく。
                    「……なァ。何で酔うほど食った」
                    「だってお酒入ってるなんて、」
                    「そこまでバカな超能力者なンざいねェ。あの風紀委員は間違えたと推測してたが、本当はわざとなンだろ」
                    「……うん」
                    ぎゅっとぬいぐるみを抱きかかえるように一方通行の頭を抱きしめる。
                    美琴があれだけの洋菓子を口にした理由。それは、彼女の想う少年にバレンタインの約束を破られたことだった。当日に会う約束をしていたのだが、補習だとか何だとかで会えなくなったと。それどころか街に出てみれば大量の箱を抱えた彼に出会ってしまい、電撃をぶちかまして帰宅する始末。自己嫌悪とやり場のない怒りで手当たり次第に食べてしまったのだ。
                    「でももういいのー。二度とやらないんだから!いっつもいっつもアイツは、補習だの何だのぉ」
                    「あァそォだな、もォいい。さっさと寝ちまえ。それから寝る前に離せ」
                    「いーやー!もっとネコもふもふするの!」
                    「クソガキより面倒くせェ」
                    「むぅ、そんなこと言うとイタズラしちゃうんだから」
                    美琴は拗ねて突き出したままの唇を、一方通行の耳元に近付けてふーっと息を吹きかけた。酒のせいで匂いの甘く、熱を帯びた吐息。突然の刺激にびくりと肩を跳ねさせた彼の反応を面白がった美琴は懲りるということを知らなかった。
                    「あはは、一方通行かぁわいい」
                    これまでは妹達の姉だということに免じて、髪を撫で回されようが、服の裾をぐいぐいと引っ張られようが耐えてきた。
                    しかし、一方通行は本来、相当に沸点の低い人間である。むしろ今まで、彼が何もアクションを取らないことの方が異常だったのだ。そして、ここに来て「かわいい」のひと言で耐えていたものが崩れ落ちた。
                    「はは、そォだよなァ。こンなのは俺らしくねェよなァ」


                    IP属地:江苏10楼2017-03-10 22:47
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                      振り回されっぱなしなのは柄じゃない。酔って状況判断能力の欠けている美琴の手首を掴んでぐいっと引き寄せる。これまでも美琴のせいで距離は目鼻が触れるほど近かったが、それはあくまで彼女の意思によるもので。視線が交わった瞬間、美琴の頬が淡く染まった。
                      「は、はなして」
                      「あァ?今までの余裕はどこ行ったンだよ。散々、玩具のよォに弄ンでくれたじゃねェか」
                      「う、あうぅうう」
                      唇が触れそうになる距離まで近付くと、美琴はきつく目を瞑って長い睫毛を震わせながら唇をきゅっと引き結んでいた。まるで肉食獣に捕食される小動物のようだ。
                      一方通行は胸のうちに形容し難い感情が湧き上がるのを感じて、だが少女の熱い手首に戯れが過ぎたことを気付かされる。
                      「さっさと寝ろ」
                      誰かに触れることなど躊躇っていなければならないはずなのに。ましてやこの少女とは、慣れ合う関係ではない。
                      頭を冷やすべきだと自室に帰ろうとした彼の服の裾が引かれる。振り返れば美琴が恥ずかしそうに俯いたまま、先よりも顔を火照らせていた。
                      「あの、ね、一緒に寝たい」
                      「……一応聞いておくが、添い寝って意味だな?」
                      「?うん。……だめ?」
                      意図して、ではないだろう。一方通行の顔色を控え目に窺う上目遣いの表情が、学園都市最強である彼が唯一適わない打ち止めそっくりで。拒めるわけがなかった。
                      起こしかけていた身体をソファーに戻し(美琴に毛布を投げつけるのも忘れずに)、背もたれと向き合う形で寝転がる。その背に擦り寄る温かいものは、他ならぬ少女だ。
                      「んふふ、あったかい」
                      くすくすと小さく笑う雰囲気がする。
                      この少女に近付きすぎるのは情が湧くようであまり良くないーーだが、否定しながら、ずっと求めていた人肌の温かさを心地良く感じ、そっと目を閉じた。
                      とろりとろり。甘く穏やかな夜が更けていった。
                      end.
                      「む………んぅ?」
                      少しの頭痛に顔を顰めて、そして視界に映るものを確認していく。
                      まず、ここは寮ではなかった。どちらかと言えば美琴の実家に近い一般家庭のリビングで、そこのソファーに横たわっているらしかった。
                      なぜ。記憶を手繰り寄せようとして。
                      「ーっ!?なっ、なん、」
                      目覚めようとしていた美琴の脳の活動が止まったようだった。
                      彼女のお世辞にも大きいとは言えない胸に顔を埋めるようにして眠っている少年。彼を、美琴はよく知っていた。妹達を惨殺してきた憎き敵であり、最近は微妙な立ち位置になってきた彼。
                      (な、何で!?あ、一方通行と寝てるのよ私!)
                      何度思い返そうとしても、昨日の夜の記憶がすっぽり抜けている。そして、嫌な感覚だけが頭の中に滑り込んでくる。
                      胸元がひやりとする一方、やけに少年の温かさが伝わるのは下着を着けていないからだろう。スカートの下も心なしか寂しい気がする。何より無愛想で年中不機嫌な表情を貼り付けている少年が、幾分か幼い寝顔を晒して穏やかに眠っていることが余計に焦りを誘う。
                      「ちょ、ちょっとあんた、起きて」
                      「……ン」
                      「あ、一方通行ってばっ」
                      「うるせェ……」
                      美琴を湯たんぽか何かだと勘違いしてるのか、寝惚けていて威厳の欠片もない第一位は心底心地よさそうに二度目の眠りへと落ちて行った。
                      (え、私たち、なにしたの、え、えっ……!このままどうしろって言うのよバカーッ!)
                      そうして彼が完全に覚醒するまでのあと一時間弱、美琴はなされるがまま、身動き一つ取れないでじっとしているしかなかった。ほんの少し、滅多に見れないあどけない少年の寝顔に絆されたという事実は心のうちにしまって。
                      ————————
                      和上一楼是一篇,度娘说超了5k所以分段了
                      稍稍机翻了一下。这似乎是车……


                      IP属地:江苏11楼2017-03-10 22:48
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                        标题:ひとつまみのシュガー
                        ホワイトデー前日。
                        行きつけのコンビニに行き、天井から吊り下がる広告やイベントスペースが設けられていれば誰でも分かるだろう。バレンタインデーにチョコレートをもらった男性は女性に「お返し」を贈らなければならないのだと。
                        そういうことに疎い一方通行も打ち止めと番外個体を引き連れてショッピングモールに足を運んでいた。面倒臭いというのが本心だが、バレンタインデー当日、彼女達が四苦八苦して手作りしていた様子を一から十まで見ていた身としては何も渡さないという選択肢はなかったのだ。
                        「プレゼント選ばせて渡すなんてさすが第一位、財力が違うね。ミサカ、あなたにこんな甲斐性があるとは思わなかったよ」
                        「オマエが煽ったンだろォが」
                        「そこらの野良犬に貢がせるのも楽しいんだけどさ。やっぱりあなたの嫌がる顔が一番なんだよねぇ」
                        それらしく物憂げに溜息を吐いている彼女を一目見ただけでは、中身がこのような言葉を躊躇いもなく発する娘だとは思いも寄らないだろう。そしてこういうときは受け流すに限ると決めている一方通行は、先を行く打ち止めが迷子にならないようにさっさと歩を進めていく。
                        「ねぇ、おねーたまには渡さないの?」
                        ブラッディバレンタイン事件と呼ぶに値するあの酔っ払い娘との一夜の翌日。起床して一番に逃げるように飛び出して行った少女は、頬を赤らめ、何やらブツブツと文句らしきことを呟きながらもお詫びとしてチョコレートを持って、改めて一方通行を訪ねてきた。
                        そのチョコレートというのも、なぜか狙ったように、糖分控えめのコーヒー味で舌触りがよく、コーヒー愛飲者の一方通行には中毒になるくらいには美味な物だった。
                        「あれは、アイツが社交辞令で持ってきたモンだろォが。返す必要ねェだろ」
                        「だめーっ!お姉さまがせっかく持って来てくれたのに!ってミサカはミサカはドライなあなたに怒り心頭!」
                        いつの間にか、打ち止めが二人の足元で腰に手を当て癖毛を揺らしている。少女は、会う度に口論ばかりしている美琴と一方通行の仲を何とか取り持って、仲良くして欲しいと考えているらしい。
                        「だいたい世間では、社交辞令という名の義理チョコが横行しているんだよ!だからお返ししなくてもいいなんてことはないのだってミサカはミサカは一般論を説いてみる」
                        「それを社交辞令っつったら死ぬ男いンだろ」
                        「と、とにかくお姉さまへのお返しを選ぶのー!」
                        せっかく出口に向かっていたというのに、打ち止めに押されるようにして再び店内に戻る。美琴本人がいないため選ばせることもできない。
                        最適なのは、いつものカエルグッズでも適当に、と思ったが、美琴が相当なマニアであるため被るという理由で却下。打ち止めに好きそうな物を選べと言っても、渡す本人が選ばないと意味がないと言われ却下。番外個体は早々にどこかへ退避していた。
                        「じゃァどォしろってンだよ!あのガキの趣味なンざ分かってたまるか!」
                        「わわっ、急に怒鳴らないでってミサカミサカの耳がキーン!」
                        吹きさらしのショッピングモールに怒声がよく響く。とは言え、周囲の客は迷子になった少女を叱る心配性の父親だと思い込み、何の違和感も抱いていないどころか微笑ましいとさえ感じていた。人間の想像力とは偉大である。
                        「別にお姉さまの好きなものじゃなくてもいいのよ?例えばお菓子とかお花とか。すぐになくなる物なら邪魔じゃないよねってミサカはミサカはアドバイス。きっとお姉さまならあなたが選んだものだったら喜んでくれると思うな」
                        笑顔と合わせれば、学園都市最強は舌打ちをしつつ剥いていた牙を収める。
                        (クソ、面倒だな)
                        打ち止めでなければ、今に殴り倒してこの場から立ち去っていただろう。ショーウインドーに飾られているものは目の痛くなるほどチカチカと輝くチョコレートやらキャンディーやら。溜息も出したくなるものだった。
                        かくして、『ホワイトデーのお返し選び』という気恥ずかしく、かつ難しい打ち止めからの課題を終えて帰宅する。明日の準備は整っている。
                        「いつ渡すのか」と打ち止めが焦れた様子だったが、明日と応えるとすっかり満足したようだ。一方通行の身にもようやく平穏が訪れて、姉妹二人の喧騒の中、重たい瞼を下ろした。
                        そして来るホワイトデー当日。
                        「それで、どうしてケンカしてるのってミサカはミサカは怒りを通り越して呆れてみたり」
                        長いワイシャツの袖で寝惚け眼を擦り、リビングのソファーに座る一方通行の姿を捉える。近所迷惑よろしく(完全防音なので同居人に対してのみ被害)、朝一番からケータイに向かって吼えているらしい。相手は誰と聞かずとも予想はつく。
                        良くも悪くも、この都市のトップである彼と口論できる相手はそれほど多くないのだ。
                        「あァ!?ンなの知るか」
                        『知るかって……アンタが贈りつけたモンじゃない!責任取りなさいよ!!』
                        「気に入らねェなら全部棄てとけよ、面倒くせェ。朝っぱらからギャンギャン喚くな」
                        『棄てれるわけないでしょ!大体気に入らないなんて言ってないし……』
                        「あ?何ボソボソ言ってやがる」
                        『な、何でもないわよ!!それより、』
                        「あ、あー!お姉さま久しぶり!ってミサカはミサカは一方通行から電話をもぎ取ってみる!」
                        せっかくのお返しで仲良くなろう作戦が泡に帰しては困る。打ち止めは一方通行の膝の上に飛び乗り、ケータイを奪い取った。
                        電話の向こうからの美琴の口調は普段通りだが、何やら戸惑っている雰囲気が伝わってくる。一方通行がそれほど趣味の悪い物を送りつけたのかーーと、推測していると打ち止めの頭上に背後からチョップが落とされた。
                        『そうじゃないんだけどね。すごく美味しそうなチョコレートとかクッキーとか、それも有名なブランドの』
                        「えっ、それなら……」
                        『うん、そこまではいいのよ……だけど、部屋いっぱいになるほどの量って何!?』
                        送られてきたメールに添付されている画像いっぱいに、スーパーに用意されているダンボールではなく、赤や黒、白の地にゴールドのラインがかかった豪奢な箱の数々が映し出されていて、それが天井高く積まれていた。
                        何を選ぶべきか悩んだ末に出した一方通行の答えがそれだった。
                        悩むくらいならば、全部贈りつけてしまえ。
                        世界を何度となく救ってきた、どこかの無能力者のヒーローでも、驚いて卒倒しそうな大胆さである。そして、その張本人は「何でも喜ぶっつっただろォが」とでも言いたげに不機嫌そのもので、とうとう雑誌を開き始めてしまっていた。
                        「え、えと、お姉さま?」
                        『ん?あぁ、打ち止めを責めてるわけじゃないのよ?常識外れのどっかの第一位さんに一言申したいだけでーー』
                        「そうじゃなくて、お姉さま、迷惑だったのかなってミサカはミサカは心配してみたり」
                        『……迷惑、じゃない』
                        その瞬間に一方通行の耳元に電話を充てがった。怪訝な表情で文句の一つでも口にしようとする彼に人差し指で静かに、の合図。
                        『むしろーーうれしい』
                        鼓膜を突き破らんばかりのそれではない、柔らかい声音に一方通行はひゅっ、と息を呑む。
                        『ホワイトデーの日ってさ、毎年憂鬱なの。チョコもらって返す日でしょ?常盤台の先輩後輩、あと他校の子とか。みんな御坂様御坂先輩って……ちょっと疲れちゃうのよ。でも、アイツの腹たつくらいムカつく顔思い出したら何か楽になって安心して、何かそれが嬉しくて。変よね』
                        超能力者にはどのような形であろうと、他人から距離を置かれ、疎外されることがあるのだろう。一方通行もその経験は嫌というほど味わった。だからこそ、他の人間にそれを経験させたくないという思いがある。
                        くすくすと溢れる小さい笑い声が耳にこそばゆくて、つい、憎まれ口を叩いてしまった。
                        「あァ、俺もオマエのアホくせェツラ思い出したら気ィ晴れてきたなァ」
                        『え、な、何で、あんた……ちょ、ちょっと今の聞いてなかったでしょうね!?』
                        「ハッ、聞いてなかったことにしてやる。下位の戯言なンざどォだっていい」
                        『はあああああああ!?ムカつく!!そのスカした口調くそ腹立つ!!!!』
                        「お嬢様らしさの欠片もねェ、清々しい罵倒だことで」
                        振り出しに戻った気がしないでもないが、どことなく一方通行が楽しそうに見えるのでこれで良かったのだろう。打ち止めは、一仕事終えたかのように大きく息を吐いてーー。
                        (ミサカもあんなふうにあなたと思いっきりケンカしてみたいなぁってミサカはミサカはちょっぴりお姉さまが羨ましかったり)
                        end.


                        IP属地:江苏12楼2017-03-10 22:49
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                          标题:8月15日
                          暑い日だった。
                          まさに「茹だるような」といった表現が似つかわしい暑さだ。現に、お気に入りのカエルのキャラクターを模した携帯電話は、朝早くに鳴動し、友人からの「プールの誘い」を知らせてくれた。今年最高の暑さを記録するだろう今日に、水に浸かって涼みたいというのは、美琴も理解できたし、今日でなければその誘いに迷うことなく乗っていたに違いない。ただ、今日はどうしても、そんな気分に浸れなかった。やけに重く、鈍い動きの身体を起こす。そして、机の上のカレンダーに視線を移した。祝日の赤字でも、美琴自身が記した何かのマークが付けられているわけでもない。一見すれば、何の変哲もない日。
                          (――8月15日。初めてあの子達と……アイツに出会った日か)
                          隣にいるはずの後輩は、早くも風紀委員の任務で寮を出ているようだった。食堂で専属メイドの他愛ない話を聞き流しつつ、朝食を取る。その後、行く宛もなく、街へ向かった。この猛暑だ。擦れ違う学生の数は多くなく、常盤台中学の制服も見かけなかった。
                          あれから、どれほど経ったのだろうか。時折、夜遅くに出歩く時、闇の濃い裏路地の奥で、廃車場で、廃墟で、あのおぞましい「実験」が行われているかもしれないと戦慄を覚えることがないと言えば嘘になる。その日は、必ず決まったように寝付きも夢見も悪く、幾度となく後輩に気に掛けられた。何も終わっていやしないのだと、もう今はいない少女達が語りかけているようだった。
                          あの頃、苛まれていた罪悪感に囚われてはいない。囚われてはいないが、ふとした瞬間に心臓を内側から締め付けられるような何かが胸の奥に確かに感じる。「あの時、私がDNAマップを渡しさえしなければ」、「実験に早く気付けてさえいれば」、そんな途方もない後悔なのか、美琴が出会って、目の前で喪った少女達を救えなかった喪失感と虚無感からなのか、一体何なのかは分からない。全てなのかもしれない。
                          そして、美琴は、こんなことを考えていると全てが初めから決まっていたことのように思うのだ。あの少女達が作り出されたことも、結果として美琴に及ばず、実験動物として「再利用」されることになったことも。「もし~だったら」などという仮定など一切許されない、彼女が生まれた時から全てが決まっていたように、それが宿命であったかのように。科学の街であるこの学園都市で「運命」や「宿命」といった何の根拠もないものは、軽視されるが、それでも――。
                          「……さま?お姉様、だよね?あ、やっぱり」
                          突然の少女の声に呼び戻される。往来にも関わらず考えに耽り過ぎていたようで、美琴の足はショーウィンドウの前から一歩も動いていなかった。いつの間にか、美琴の背丈の半分くらいの少女がすぐ隣に近づいていて、嬉しそうに美琴を見上げていた。
                          「お姉様もお散歩?ってミサカはミサカはお姉様と会えた嬉しさをくるくる回りつつ体現してみたり」
                          美琴は、改めてその少女の姿を認めて、そしてその少女の後ろの少年に気付いた。間が悪いとしか言えなかった。少女の前であるというのに、つい、敵意と警戒心を込めて睥睨してしまう。
                          「……一方通行」
                          「第三位か。見たくもねェ顔に出くわしたもンだ」
                          「それはこっちの台詞よ」
                          美琴の相手をすることにも億劫そうに、一方通行は美琴の顔を一瞥すらしない。その横柄な態度が、美琴の癇に障った。
                          そのまま放っておけば、周辺一体が吹き飛ぶことも考えられたが、双方、この小さな少女を悲しませることを良しとしなかった。そのため、「ミサカは喉がカラカラなので、そこの喫茶店で飲み物を飲みたいなあってミサカはミサカは二人に訴えかけてみたり」という一言で、緊迫とした空気は霧散してしまった。
                          「へへ、暑いけどおつかいに出て良かったって、お姉様と会えた偶然に感謝してみたりってミサカはミサカは喜びを素直に口にしてみたり」
                          「私も嬉しいわ、打ち止め」
                          そこのがいなけりゃ文句なしにね、という皮肉を何とか呑み込む。その一方通行は、美琴と同席することがよほど気分の悪いことなのだろう。美琴と打ち止めの席の一つ奥側の席で、素知らぬ顔でコーヒーを口に運んでいた。
                          「あのね、あの人あんな態度取ってるけど、本当は不器用さんなだけなのってミサカはミサカは真実をお姉様に伝えてみる」
                          「アイツがねぇ……」
                          あの夏以降、何度か顔を合わせたし、ハワイでは言葉も交わした。今は実験に参加する意思がないことは確認できたが、打ち止めの言うような少年であるとは全く理解が及ばない。彼女が好んでそばにいるだけの価値があるような少年とはとても思えないのだった。
                          「はぁ……、やっぱり私には分からない。だってあんなこと言うようなヤツよ」
                          「あんなこと?」
                          今、思い出しても、腹の立つ話だと思う。
                          あの実験に関して、何の責も過失もないとは言わない。美琴のしたことが実験の発端となったことは、その意思がどうあれ事実であり結果だからだ。それは、美琴も認めるところである。しかし、あの少年にだけは、そういったことを言われる道理はないはずだ。彼女達に何を責められようと、罵られようと、存在を否定されようと、あの少年には。
                          美琴自身の心情まで伝えはしなかったものの、ハワイでの一連の会話を伝えると、打ち止めは驚いたように目を見開いて、やがて悲しさと嬉しさが綯い交ぜになったような複雑な表情で微笑った。
                          「お姉様が羨ましい、ってミサカはミサカはちょっと嫉妬してみたり」
                          「アンタを羨ましがらせるようなことは言わなかったつもりだけど……」
                          「ううん。あの人ね、そういうこと滅多に言わないの。……あの人はね、ぜんぶ背負いこんじゃう人だから。いくらミサカや、他の人が一緒に背負いたいって言ったって絶対に背負わせてくれない人だから。独りでいなきゃだめだと思ってるから……いつも寂しい人なの」
                          打ち止めは両手で大切そうに包んでいたアイスコーヒーに視線を落とす。
                          「だから、同じ罪を償っていけるお姉様が羨ましい」


                          IP属地:江苏13楼2017-03-10 22:52
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                            カランコロン、というドアベルの優しげな音を背中に聞いて、美琴は店を後にした。50mほど離れたところで打ち止めが振り返って手を振っていた。その途中で、前方を行く少年に声を掛けられ、ようやく前を向いて少女もそれに倣った。美琴の立つ位置からでは暮れかかった陽の逆光で、一方通行の表情を見て取ることはできない。
                            あの一方通行が、他人に罪を背負わせたくないだとか、寂しいだとか、本当に感じることがあるのだろうか。そんな人間らしい感情を抱くことが。だが、打ち止めをそばに置き続けて能力を失ってまでも、彼女と彼女達を救っていることは事実として美琴の目の前にある。
                            (……信じられない、けど、私はちゃんとこの目で見なきゃいけない。あの子達と、一方通行を)
                            彼らの小さくなる姿を見届けてから、美琴は寮に向かってゆっくりと歩み出した。
                            「不機嫌そうだねってあなたの眉間に寄ったすごい皺を撫でてあげられないことが残念だったり。お姉様がそんなに気に入らない?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」
                            一方通行の後を追うように着いて来ていた打ち止めが駆けて来て、彼の目の前でぴたりと行儀良く止まった。打ち止めの澄んだ瞳は無垢でいるようで、一方通行に逃げることを許さない。
                            「気に入るもいらねェもねェよ。格下の女なンざ、どォでもいい」
                            「それは本当?ってミサカはミサカはお姉様と一度も視線を合せなかったあなたを問い詰めてみる。今日初めて会った時、あなたはこう言った。見たくもねェ顔、って。その時ですら、お姉様の顔を見ようとしなかったのはなぜ?ってミサカはミサカはもう一度、同じ問いを投げかけてみる」
                            まるで聞き入れていないようで、一方通行が意図して押し黙っていることを打ち止めは見抜いていた。一方通行は、決して適当な言葉や嘘偽りで誤魔化そうとしないと小さな少女は知っていた。
                            「ミサカは推測してみる。お姉様にああ言ったのは、もし、お姉様が「あなた」という明確な宿敵を失ったら、お姉様が壊れてしまうから。お姉様自身が全て背負わなければならなくなってしまうから、ってミサカはミサカはあなたの深層心理を読み取ってみる」
                            「勝手な解釈を入れるンじゃねェ」
                            一方通行は、打ち止めの横をゆっくりと通り過ぎ、黄昏の空を見上げる。既に肉眼で沢山の見える星があるが、その数は一万にも及ばないだろう。
                            「悪党だ何だと正当化することはやめたが、それで過去を清算して善人に生まれ変われるなンて都合のいい事なンてねェよ。第三位を加害者だと言ったのは、言葉通りの意味だ。そォいう意味でなら、俺とあの女は共犯っつゥことになるなァ」
                            自嘲的な笑みでもって喉で笑ってみせた一方通行は、それ以上は語らずに再び帰路を歩み始めた。一人、闇の中へ足を踏み入れていく姿は、打ち止めに不安を募らせる。また、ふと目を離した隙に彼がどこか遠い僻地へ行ってしまうのではないか、どこか知らない場所で孤独に自分と「彼女達」と戦っているのではないか、と。
                            (でも、あなたの苦しみが少しでも分かってもらえて、あなたが独りじゃないなら、それで帰って来てくれるなら、遠くへ行ってもミサカはミサカは何の心配もないんだよ、一方通行)
                            ふわりと花のように笑った打ち止めは、どんどんと離れて行く彼を追い掛けて、駆けて行った。その直後、夏の終わりが少しずつ近づいていることを知らせるかのように、涼しい風が吹いて、少年達と少女の髪を優しく揺らした。
                            end.


                            IP属地:江苏14楼2017-03-10 22:52
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                              15楼2017-03-11 13:51
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