「人間が運用出来る魔力を発動させるための精神構造式である『スペル』を、より効率的に再構成する……」
圧縮スペルに関する詳しい情報を求めて、図書館にこもってはや三日。
研究の成果は相当なもので、魔力とその構造について、様々な情報を手に入れることができた。
勇者や貴族の中に宿った魔力は、決して「いでよ!」と叫ぶだけで発動するものではなかった。
それなりに体系化された公式と方法があったのだ。
体に宿っている魔力は「言霊」、つまり口に出して発声することで物理的に放出される。その過程における、魔力を集める言霊を「意識語」、集めた魔力を何らかの具体的な形をした力に昇華させる言葉を「象徴語」と呼ぶ。最後に、このふたつを限定した時間内に唱える行為が、「詠唱」だ。
つまり、意識語を使用して魔力を集め、象徴語を使用して、地球で言うファンタジー世界のファイヤーボールやマジックアローといった攻撃魔法に転換させるのだ。
この全ての言霊の体系は公式化されていて、その公式に使われる言語が、通称「スペル」である。
ちなみに、俺は魔力を注入する側の「マザー」であるため、攻撃魔法などに必要な、様々な象徴語を深く知る必要はなかった。
必要な象徴語は、ひとつだけだ。
『インジェクティブスペル』
俺の魔力を他人に注入させる際の象徴語だ。
これさえ覚えていれば、後は意識語スペルを通して「どれだけ効果的に魔力を集められるか」にだけ集中すればいい。魔力レベルが高ければ、様々なスペルを構成する方法も使えただろうが、魔力レベルが低いので、運用出来る魔力量が絶対的に足りず、試せるスペルもかなり限定されてしまった。
勉強してみてわかったのだが、サークルというのは魔力そのものの強さではなく、本人の魔力の器の大きさ、つまり魔力を貯められる最大容量を示すものだった。
魔力というのは、この世界のあらゆるところに空気のように存在しているのだが、一定サークルの器を持つ人間が、普段はその魔力を体に蓄積しておいて、必要な時にそれを利用する、といった感じだろうか。
例えば、器が小さければ、どれだけ水を注いだところで一定量以上は入らないだろう。
「パリル・ホール・マグリュード……」
「ハビアン・ダー・ミドラ・レイズ……」
ジークが眠っている間、俺は一人で、スペル運用のための訓練を始めた。
まずは自分の名前を言う。この時、必ず真名を言わなければならない。真名というのは、生まれた時に授かった、本人が自分の名前だと最初に認識した名前のことだ。
目を閉じ、頭の中でスペルを浮かべながら詠唱する。
音声は小さくても、大きくてもいい。
詠唱をするだけで、自分の中の魔力を実感することが出来る。
それは、思った以上に気持ちのいい感覚だった。
体のあちこちから爽やかな汗が吹き出すような、形容し難い温かい気配が体内を漂って、後頭部を駆け上がるようにして消える。
全身麻酔の際、麻酔薬が体に入ってくると感じる、気持ちのいい脱力感と似ている。
最初はどう魔力を運用したらいいのかわからないと思ったが、数日練習してみると、自分の中で確かに感覚が掴めた。
問題は、サークル一の魔力を運用しただけで、ひどく疲れることだった。
精神的な疲労だ。
実質、サークル一で具現出来る象徴語スペル……つまり攻撃魔法は、ひとつもない。意識語だけで魔力を運用しただけなのに、ここまで精神的に疲れるとは。
運用している間はいい気分になるが。
これは、肉体も少し鍛えておく必要がありそうだな。
何事にも優れている俺様だが、魔力体系を経験するのは初めてだからな。しかし俺には、何でも素早く理解して核心を把握する、生まれ持った才能がある。魔力に関しても、サークル一だからといって挫折せずに、より踏み込んでみることにした。
圧縮スペル。
この概念は、そもそものサークルが低い俺に、大きな可能性をもたらしてくれる気がする。
それを実現させるには、圧縮した魔力に耐えうる体を作ることから始めなければならない。
よし。これからは、俺もジークと共に肉体トレーニングをするメニューを追加するとしよう。
「圧縮……圧縮……」
俺はしばらく、圧縮スペルに全神経を尖らせた。
ベッドにうつ伏せになって、寝る直前まで本を読み、頭の中でイメージを浮かべるのを繰り返した。
そんな日々を過ごし、授業と本を通してわかった情報が色々とある。
魔力を発動させる意識語スペルは、かなりバリエーションがあった。
ひとまずこの意識語は、全部覚えなければならない。
より高度なスペルを詠唱すれば、より多くの魔力を運用出来る。問題は……俺の魔力の器は小さいので、高度なスペルを詠唱したところで、そもそも体に必要な量の魔力が用意されてないというところである。
このような、器自体が小さい人間を救うために生まれた方法が「圧縮スペル」、文字通りスペルを圧縮した式だ。
簡単に説明すると……高度な意識語スペルはそれだけ多い魔力を必要とするため、使う人の器も大きくなくてはならない(サークル値が高い必要がある)のだが、そこで魔力を「圧縮」して、同じ器の中により多く魔力を入れられるようにする方法だ。
これは、大変興味深いやり方だ。
理論通りにいけば、たとえ生まれ持った器が小さくても、魔力を圧縮して、俺の一サークル分の器に詰め込めばいいということになる。
しかし……世の中、そう甘くはない。
その「圧縮」というのは、簡単な方法ではなかった。
例えば、俺のサークル一の器に収まるスペルは、文字通り「サークル一の分のスペル」だ。
同じ器にサークル二、サークル三の分量を入れるためには、「圧縮式」という複雑な意識語を理解した上で具現化しないといけないのだが、その圧縮式の具現のためには、高度な数学的計算が必要だ。
サークル二の分量のスペルを、サークル一の器に入れるための、圧縮率二倍のケースを仮定してみよう。
圧縮スペルに関する詳しい情報を求めて、図書館にこもってはや三日。
研究の成果は相当なもので、魔力とその構造について、様々な情報を手に入れることができた。
勇者や貴族の中に宿った魔力は、決して「いでよ!」と叫ぶだけで発動するものではなかった。
それなりに体系化された公式と方法があったのだ。
体に宿っている魔力は「言霊」、つまり口に出して発声することで物理的に放出される。その過程における、魔力を集める言霊を「意識語」、集めた魔力を何らかの具体的な形をした力に昇華させる言葉を「象徴語」と呼ぶ。最後に、このふたつを限定した時間内に唱える行為が、「詠唱」だ。
つまり、意識語を使用して魔力を集め、象徴語を使用して、地球で言うファンタジー世界のファイヤーボールやマジックアローといった攻撃魔法に転換させるのだ。
この全ての言霊の体系は公式化されていて、その公式に使われる言語が、通称「スペル」である。
ちなみに、俺は魔力を注入する側の「マザー」であるため、攻撃魔法などに必要な、様々な象徴語を深く知る必要はなかった。
必要な象徴語は、ひとつだけだ。
『インジェクティブスペル』
俺の魔力を他人に注入させる際の象徴語だ。
これさえ覚えていれば、後は意識語スペルを通して「どれだけ効果的に魔力を集められるか」にだけ集中すればいい。魔力レベルが高ければ、様々なスペルを構成する方法も使えただろうが、魔力レベルが低いので、運用出来る魔力量が絶対的に足りず、試せるスペルもかなり限定されてしまった。
勉強してみてわかったのだが、サークルというのは魔力そのものの強さではなく、本人の魔力の器の大きさ、つまり魔力を貯められる最大容量を示すものだった。
魔力というのは、この世界のあらゆるところに空気のように存在しているのだが、一定サークルの器を持つ人間が、普段はその魔力を体に蓄積しておいて、必要な時にそれを利用する、といった感じだろうか。
例えば、器が小さければ、どれだけ水を注いだところで一定量以上は入らないだろう。
「パリル・ホール・マグリュード……」
「ハビアン・ダー・ミドラ・レイズ……」
ジークが眠っている間、俺は一人で、スペル運用のための訓練を始めた。
まずは自分の名前を言う。この時、必ず真名を言わなければならない。真名というのは、生まれた時に授かった、本人が自分の名前だと最初に認識した名前のことだ。
目を閉じ、頭の中でスペルを浮かべながら詠唱する。
音声は小さくても、大きくてもいい。
詠唱をするだけで、自分の中の魔力を実感することが出来る。
それは、思った以上に気持ちのいい感覚だった。
体のあちこちから爽やかな汗が吹き出すような、形容し難い温かい気配が体内を漂って、後頭部を駆け上がるようにして消える。
全身麻酔の際、麻酔薬が体に入ってくると感じる、気持ちのいい脱力感と似ている。
最初はどう魔力を運用したらいいのかわからないと思ったが、数日練習してみると、自分の中で確かに感覚が掴めた。
問題は、サークル一の魔力を運用しただけで、ひどく疲れることだった。
精神的な疲労だ。
実質、サークル一で具現出来る象徴語スペル……つまり攻撃魔法は、ひとつもない。意識語だけで魔力を運用しただけなのに、ここまで精神的に疲れるとは。
運用している間はいい気分になるが。
これは、肉体も少し鍛えておく必要がありそうだな。
何事にも優れている俺様だが、魔力体系を経験するのは初めてだからな。しかし俺には、何でも素早く理解して核心を把握する、生まれ持った才能がある。魔力に関しても、サークル一だからといって挫折せずに、より踏み込んでみることにした。
圧縮スペル。
この概念は、そもそものサークルが低い俺に、大きな可能性をもたらしてくれる気がする。
それを実現させるには、圧縮した魔力に耐えうる体を作ることから始めなければならない。
よし。これからは、俺もジークと共に肉体トレーニングをするメニューを追加するとしよう。
「圧縮……圧縮……」
俺はしばらく、圧縮スペルに全神経を尖らせた。
ベッドにうつ伏せになって、寝る直前まで本を読み、頭の中でイメージを浮かべるのを繰り返した。
そんな日々を過ごし、授業と本を通してわかった情報が色々とある。
魔力を発動させる意識語スペルは、かなりバリエーションがあった。
ひとまずこの意識語は、全部覚えなければならない。
より高度なスペルを詠唱すれば、より多くの魔力を運用出来る。問題は……俺の魔力の器は小さいので、高度なスペルを詠唱したところで、そもそも体に必要な量の魔力が用意されてないというところである。
このような、器自体が小さい人間を救うために生まれた方法が「圧縮スペル」、文字通りスペルを圧縮した式だ。
簡単に説明すると……高度な意識語スペルはそれだけ多い魔力を必要とするため、使う人の器も大きくなくてはならない(サークル値が高い必要がある)のだが、そこで魔力を「圧縮」して、同じ器の中により多く魔力を入れられるようにする方法だ。
これは、大変興味深いやり方だ。
理論通りにいけば、たとえ生まれ持った器が小さくても、魔力を圧縮して、俺の一サークル分の器に詰め込めばいいということになる。
しかし……世の中、そう甘くはない。
その「圧縮」というのは、簡単な方法ではなかった。
例えば、俺のサークル一の器に収まるスペルは、文字通り「サークル一の分のスペル」だ。
同じ器にサークル二、サークル三の分量を入れるためには、「圧縮式」という複雑な意識語を理解した上で具現化しないといけないのだが、その圧縮式の具現のためには、高度な数学的計算が必要だ。
サークル二の分量のスペルを、サークル一の器に入れるための、圧縮率二倍のケースを仮定してみよう。