奉納舞に参加できるのは七名です。わたくしと同学年の領主候補生は十名。来年の卒業式で奉納舞に参加できない者も当然出てきて、男性が一人、女性が二人余ることになります。ローゼマイン様が音楽に入ることを希望しているので、奉納舞に参加できない女性は実質一人でしょう。
「参加する方も、補欠として待機していただく方も奉納舞の衣装をまとっていただくので、今年の卒業式に予定のない方にお願いした方が良いと思うのですが、ハンネローレ様のご予定はいかがでしょう?」
「わたくしは今年の卒業式に婚約者候補と向かいますから、奉納舞への参加は見合わせたいと存じます」
わたくしは即座に断りました。オルトヴィーン様がわずかに目を見張ってわたくしを見たのがわかります。
何故か驚いているようですが、嫁盗りディッターが卒業式の後に予定されているので、卒業式時点でケントリプスは婚約者候補です。他の女性に声をかけることなどできません。必然的にわたくしをエスコートすることになるでしょう。
「それから、ローゼマイン様は継承の儀式で神々への奉納舞を終えたので、奉納舞には参加しないと伺っています」
「まぁ、そうなのですか?」
驚きの声を上げる先生に、わたくしはローゼマイン様とフェルディナンド様の懸念を伝えます。光の柱が立つくらいで済めば良いけれど、継承の儀式と同様に神々に招かれて姿を消す可能性が高く、卒業式がめちゃくちゃになりかねない、と。
「確かに卒業式で姿を消されるのも、突然祭壇の神像が動くのも困りますね」
継承の儀式に起こったことを思い出したのでしょう。先生は苦笑気味に頷きました。
「ツェントとも話し合うそうですけれど、ローゼマイン様を奉納舞の数に入れない方が良いと思います。ご自身の卒業式でも音楽に入ることを希望していらっしゃいましたから」
「光の舞う美しい奉納舞を卒業式本番で見られるのを楽しみにしていたのですけれど……」
フェルディナンド様が許さないとおっしゃっていましたし、今年も神々からの関与があったのです。とても許可が出ると思えません。
「僭越ですが、来年奉納舞に出られない方にお願いするのがよろしいのでは?」
舞の上手い方から選出されるとはいえ、領地の順位も考慮されます。おそらくフリーデリーケ様は自分の卒業式で舞えません。
「そうですね。……フリーデリーケ様に今年の奉納舞を、補欠をマルガレーテ様にお願いしたいのですけれどよろしいですか?」
「かしこまりました」
フリーデリーケ様は最終学年の方々とお稽古することになり、先生と共にそちらへ向かいました。風の女神の位置に立つように指示を受けている様子が見えます。
先生が戻ってくると、普段通りのお稽古が始まりました。
「一度休憩しましょう」
そう言って先生が背を向けて去っていくや否や、オルトヴィーン様がわたくしの前に立ちました。ラザンタルクの懸念通りです。
「ハンネローレ様、あちらでお話ししてもよろしいですか?」
「重要なお話であればダンケルフェルガーのお茶会室を準備いたしますけれど……」
「婚約者候補のいない場でお話しさせてください。ここならば他者の目がありますから」
やんわりと場所を改めることを提案しましたが、オルトヴィーン様にキッパリと断られました。周囲の目が気になりますが、それはたくさんの方が周囲にいるということです。二人きりではありませんし、今更わたくしの答えが変わるわけではありません。壁際に置かれている椅子を示され、わたくしは頷きました。
「こちらを」
わたくしが差し出された盗聴防止の魔術具を握ると、オルトヴィーン様はわたくしを覗き込むようにしてじっと見つめました。
「ハンネローレ様は婚約者候補にエスコートされて今年の卒業式に出席されるのですか? それはアウブのご命令でしょうか?」
……え? お父様との情報共有についてお話しするのではありませんの!?
思わぬ話題に、わたくしは息を呑みました。
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https://ncode.syosetu.com/n4750dy/35/普段は出てこない他領の人達が集まる奉納舞のお稽古です。
挨拶だけで次から次へとお久し振りの方々が出てきますね。
ようやくダンケルフェルガーから貴族院の日常に戻った気分になりました。(笑)
次は、休憩中のお話です。