東京を中心として地上から「赤い柱」となって打ち上げられた何かは、衛星軌道に到達し、またたく間に五十以上の衛星を破壊した。これは破壊された衛星の破片がまた破片を生成し、衛星を連鎖的に破壊するといった過程によるものではなく、一基一基を狙いすましたような機動によるものであると考えられている。地上を監視する目としての衛星は引き続く攻撃によりその機能を喪失し、そのこと自体が、地上の管制にとっては先制攻撃を受けたと判断するに足る事象だった。このとき報復核が発射されなかった事情については、幸か不幸か地上の通信網が混乱していたからであると説明されることが多いのだが、実態は人類側が怪獣という存在をようやく、人間以上の脅威として認定したことにあったらしい。この期に及んで、人間が人間を攻撃するという発想が、多くの者の頭にはすでに浮かばなくなっていた。