あの年も、ずいぶんと暑い夏だったらしい。ムシムシとした日がずっと続いたと、私の母が昔、よく言っていた。1966年8月、ときおり小雨がぱらつく曇天の日、当時30歳の袴田巌さんは逮捕された▼
据说,那年夏天也酷热无比。我母亲以前经常说,那会儿每天都很闷热。1966年8月,一个时不时下点小雨的阴天,当时30岁的袴田严被逮捕。
私が生まれたのは、その翌日だった。だから、この事件を考えるときにはどうしても、自分の半生を重ねてしまう。そして、思う。袴田さんが殺人犯とされた58年という年月がいかに長く、重いものかを▼
我在他被逮捕的第二天出生,所以每每想到这一事件我总会想到自己的前半生。而后,便会觉得袴田先生被误判为杀人犯的58年岁月是何等的漫长与沉重。
「神さま――。僕は犯人ではありません。僕は毎日叫んでいます」。袴田さんはそんな言葉を手紙に書き、獄中から親族に送っている。死刑の判決は逮捕の2年後。刑が確定したのは、私が坊主頭で田舎の中学に通っていたころだった▼
“神啊,我不是犯人。我每天都在向神明呼喊”。这是袴田先生在狱中写在信件上,寄给亲人的文字。他被逮捕2年后被判处死刑。他被判刑时,我还是个在乡下读初中的小光头。
「刑場に引かれる夢の中で絶望の何たるかを知り尽くす」。いつ刑が執行されてもおかしくない日々に、心が蝕(むしば)まれたようだ。姉の秀子さんとの面会では「悪魔の手先」が来るといった妄想を口にするようになっていったという▼
“每天做着被拉去刑场处刑的噩梦,深刻体会绝望为何物”。在随时可能被执行死刑的日子里,他的心灵仿佛一点一点地被侵蚀。据说他姐姐秀子女士去监狱探望他时,他还胡言乱语说“恶魔的手爪伸过来了”。
きのう、静岡地裁は再審判決で袴田さんを無罪とし、捜査機関が証拠を捏造(ねつぞう)したと認定した。捏造で死刑求刑とは、重大な犯罪だ。殺人未遂ともいえるのではないか▼
昨天,静冈地方法院在重审中判定袴田先生无罪,断定为搜查机关无中生有捏造了证据。捏造证据请求判处死刑,这是重大犯罪。可以说是杀人未遂。
58年前に生まれた赤ん坊もいまでは老眼鏡をかけ、髪はすっかり薄くなった。秀子さんによれば、「はっきりものを言う人間」だった弟は、もはや意思の疎通が難しいという。あまりにも長き歳月を、袴田さんは非情に奪われた。何とも言えぬ虚(むな)しい気持ちを、どこにもっていけばいいかと、悩む。
58年前出生的那个婴儿如今已经老眼昏花,头发稀疏。据秀子女士所说,曾经言谈清晰的弟弟现如今已经沟通困难。袴田先生的漫长岁月被无情剥夺。这份无法言说的空虚情绪该如何安放才好呢?令人头疼。
单词解析
1.ぱらつく
稀稀拉拉微降。
【例句】小雨がぱらついてきた。
2.坊主頭「ぼうずあたま」
光头,秃头。
【例句】坊主頭にする。
3.妄想「もうそう」
胡思乱想,妄想。
【例句】妄想をたくましくする。
4.求刑「きゅうけい」
请求处刑。
【例句】検事は被告に対して5年の禁固を求刑した。
5.非情「ひじょう」
无情。
【例句】あの人ほど非情な人はいない。
【翻译心得】
原文:刑が確定したのは、私が坊主頭で田舎の中学に通っていたころだった。
译文1:他被确定处刑的时候,我剃个光头在乡下读初中。
译文2:他被判刑时,我还是个在乡下读初中的小光头。
分析:译文2将「坊主頭」后置,后句内容做修饰语,行文更贴切自然。
【背景知识】
1966年に静岡県のみそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さん(88)の裁判をやり直す再審で、静岡地裁(国井恒志裁判長)は26日、無罪(求刑死刑)を言い渡した。判決は、「自白」した供述調書や犯行着衣とされた「5点の衣類」など三つの証拠捏造(ねつぞう)がある、と認定した。死刑が確定した事件で再審無罪となったのは戦後5件目。
据说,那年夏天也酷热无比。我母亲以前经常说,那会儿每天都很闷热。1966年8月,一个时不时下点小雨的阴天,当时30岁的袴田严被逮捕。
私が生まれたのは、その翌日だった。だから、この事件を考えるときにはどうしても、自分の半生を重ねてしまう。そして、思う。袴田さんが殺人犯とされた58年という年月がいかに長く、重いものかを▼
我在他被逮捕的第二天出生,所以每每想到这一事件我总会想到自己的前半生。而后,便会觉得袴田先生被误判为杀人犯的58年岁月是何等的漫长与沉重。
「神さま――。僕は犯人ではありません。僕は毎日叫んでいます」。袴田さんはそんな言葉を手紙に書き、獄中から親族に送っている。死刑の判決は逮捕の2年後。刑が確定したのは、私が坊主頭で田舎の中学に通っていたころだった▼
“神啊,我不是犯人。我每天都在向神明呼喊”。这是袴田先生在狱中写在信件上,寄给亲人的文字。他被逮捕2年后被判处死刑。他被判刑时,我还是个在乡下读初中的小光头。
「刑場に引かれる夢の中で絶望の何たるかを知り尽くす」。いつ刑が執行されてもおかしくない日々に、心が蝕(むしば)まれたようだ。姉の秀子さんとの面会では「悪魔の手先」が来るといった妄想を口にするようになっていったという▼
“每天做着被拉去刑场处刑的噩梦,深刻体会绝望为何物”。在随时可能被执行死刑的日子里,他的心灵仿佛一点一点地被侵蚀。据说他姐姐秀子女士去监狱探望他时,他还胡言乱语说“恶魔的手爪伸过来了”。
きのう、静岡地裁は再審判決で袴田さんを無罪とし、捜査機関が証拠を捏造(ねつぞう)したと認定した。捏造で死刑求刑とは、重大な犯罪だ。殺人未遂ともいえるのではないか▼
昨天,静冈地方法院在重审中判定袴田先生无罪,断定为搜查机关无中生有捏造了证据。捏造证据请求判处死刑,这是重大犯罪。可以说是杀人未遂。
58年前に生まれた赤ん坊もいまでは老眼鏡をかけ、髪はすっかり薄くなった。秀子さんによれば、「はっきりものを言う人間」だった弟は、もはや意思の疎通が難しいという。あまりにも長き歳月を、袴田さんは非情に奪われた。何とも言えぬ虚(むな)しい気持ちを、どこにもっていけばいいかと、悩む。
58年前出生的那个婴儿如今已经老眼昏花,头发稀疏。据秀子女士所说,曾经言谈清晰的弟弟现如今已经沟通困难。袴田先生的漫长岁月被无情剥夺。这份无法言说的空虚情绪该如何安放才好呢?令人头疼。
单词解析
1.ぱらつく
稀稀拉拉微降。
【例句】小雨がぱらついてきた。
2.坊主頭「ぼうずあたま」
光头,秃头。
【例句】坊主頭にする。
3.妄想「もうそう」
胡思乱想,妄想。
【例句】妄想をたくましくする。
4.求刑「きゅうけい」
请求处刑。
【例句】検事は被告に対して5年の禁固を求刑した。
5.非情「ひじょう」
无情。
【例句】あの人ほど非情な人はいない。
【翻译心得】
原文:刑が確定したのは、私が坊主頭で田舎の中学に通っていたころだった。
译文1:他被确定处刑的时候,我剃个光头在乡下读初中。
译文2:他被判刑时,我还是个在乡下读初中的小光头。
分析:译文2将「坊主頭」后置,后句内容做修饰语,行文更贴切自然。
【背景知识】
1966年に静岡県のみそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さん(88)の裁判をやり直す再審で、静岡地裁(国井恒志裁判長)は26日、無罪(求刑死刑)を言い渡した。判決は、「自白」した供述調書や犯行着衣とされた「5点の衣類」など三つの証拠捏造(ねつぞう)がある、と認定した。死刑が確定した事件で再審無罪となったのは戦後5件目。